「イルドラ殿下、その町をご存知ですか?」
「……悪い。俺にもわからない。勉強不足だな」

 イルドラ殿下も、その町についてはよく知らないようだった。
 これには御者のゼオットさんも、困った顔をしている。これ以上なんと説明したらいいのか、彼の方もよくわかっていないらしい。

「……ヴェルナルゼは、モルダン男爵家の領地にある町ですよ」
「え?」
「エルヴァン……」
「モルダン男爵家の領地の中では、三番目くらいに大きな町ですね。もっとも、それ程大きな町ではありません。村というには発展しているようですが、中途半端な所であるようです」

 そんな私達の前に現れたのは、第四王子であるエルヴァン殿下だった。
 彼は、特に資料も見ずにヴェルナルゼという町の解説をしてくれる。読書家の彼のことだ。その辺りも本で仕入れた知識だろうか。