ベランダであるため、入り口に気を配っていれば特に問題はないだろうが、念のため小声でイルドラ殿下に事情を伝えるとしよう。

「……アヴェルド殿下が浮気していました」
「……ほう」
「……驚かれないのですね? もしかして、知っていましたか?」
「知らなかったというと、嘘になるかもしれないな。心当たりがある。しかし、驚いてはいる。てっきり既に終わったことだと思っていたからな」

 私の言葉に、イルドラ殿下は眉をひそめていた。
 私と婚約する前から、アヴェルド殿下はネメルナ嬢と関係を持っていたという。それは知っていたが、私との婚約を機に終わらせたと思っていたのかもしれない。

「アヴェルド殿下は、どうにも煮え切らない態度でした。私との婚約を破棄するつもりもないし、彼女を妾とすることも切り捨てることもできない。どうにも中途半端な態度です」