一晩休んだ私は、エリトン侯爵家の屋敷に帰るために馬車の近くまで来ていた。
 しかしそこで私は、足を止めることになってしまった。使用人の一人から、手紙を渡されたのである。
 それは、私に宛てた手紙だった。差出人は、ラフェシア様だ。

「これはっ……」
「……やはり、リルティア嬢でしたか。こんな所で何を?」
「あ、ウォーラン殿下……」

 手紙を読んでいた私の元にやって来たのは、ウォーラン殿下だった。
 偶然、この辺りを通りかかって、私の姿を見て変に思ったらしい。
 それは当然といえば当然だ。こんな所で手紙を読んで固まっている私なんて、明らかに変であるだろう。

「あのですね。少し困ったことになっていて……」
「困ったこと?」
「メルーナ嬢のことで」
「……メルーナ嬢に、何かあったのですか?」

 私の言葉に、ウォーラン殿下はその表情を変えた。
 そういえば、彼はそもそもメルーナ嬢のことを知っていた人だ。それはウォーラン殿下にとって、苦い思い出として残っている。メルーナ嬢を助けることができなかったことは、彼にとっては失敗なのだ。