「私が言いたかったのは、そういったことではありません。イルドラ殿下が、お優しい方だということです」
「……何?」
「イルドラ殿下は、私のことを助けてくださいました。それは善意からの行動です」
「……そういう訳でもないさ。あれは単純に、王位を手に入れられるからだ」
「そんな風に誤魔化す所も含めて、お優しい人であると思います。ただイルドラ殿下は、お優しいだけではありません。時には非情な判断も下せる、立派な王族です」

 私の口からは、すらすらと言葉が出てきていた。
 私は自分で思っていた以上に、イルドラ殿下のことを評価していたらしい。

 ただ、それは自分の中では納得できることではあった。そもそもこの話を持ち掛けられて最初に誰の顔が思い付いたか、それに思い至ったのだ。
 私は最初から、イルドラ殿下を選びたかった。それは王位に相応しいかどうかなどではなく、単に私の個人的な感情として。