「あの時のこと?」

 とりあえず私は、以前のことを問いかけてみることにした。
 彼は困っている私を助けてくれると言った。それに私は、対価は何かと聞いたのである。
 それに対して、彼は口ごもっていた。それは対価などは求めていなかったからだ。彼は困っている人を見過ごせない真っ直ぐな人であると思う。

「……あの時俺は、対価は君の笑顔で充分だ、みたいなことを言っていたか」
「え? ああ、そんなことも言いましたね」
「我ながらキザというか、なんとも浮ついたことを言っていたものだ……」

 イルドラ殿下は、頭を抱えていた。
 私が言いたかった訳ではない部分で、ショックを受けているようだ。
 確かに、そのようなことは言っていたような気がする。ただそれは、誤魔化すための言葉だろう。別に心からの言葉という訳でもないはずだ。