いやどちらかというと、私が乗ってくると思っていなかったということだろうか。はぐらかされると、思っていたのかもしれない。どちらにしても、私の言葉は意外だったようだ。

「……まあ、対価のことなんていいじゃないか」

 イルドラ殿下は、少し思案した後そのように呟いた。
 彼の表情は、ここに来た時と違って真剣だ。軽薄な感じが消えている。

「女性が困っていたら助けるなんて、紳士であるならば当然のことであるだろう。ああ、そうだ。対価というなら、あなたの笑顔だけで充分だ」
「……助けていただく場合は、きちんとした対価をお支払いしますよ。借りを作りたくはありませんからね」
「なるほど、リルティア嬢は真面目だな」

 イルドラ殿下の言葉に、私は自分が少し勘違いしていたということに気付いた。