それは私の失態である。周囲に人がいるかどうかに、もっと気を払っておけば良かった。
 私の言葉を聞いた人物は、ゆっくりと私の隣までやって来た。その人物のことは、私もよく知っている。

「イルドラ殿下……」
「ああ、イルドラだとも。リルティア嬢、こんな所で浮かない顔をしてどうした?」

 イルドラ殿下は、アヴェルド様の弟だ。
 第二王子である彼には、少し軽薄な印象がある。遊んでいるとも聞いているし、やましい噂が絶えない人だ。
 故に私は、少し警戒していた。今回の呟きを聞かれたことで、何かしら悪いことが起こるのではないかと、そう思ったのである。

「おいおい、そんなに警戒するなよ。これでも俺は、あなたのことを心配しているんだぜ?」
「……別にご心配いただくようなことはありませんから」