「えっ。何このクッキー、すっごく美味しい!」


怖々と口にしたクッキーは予想以上の美味しさで、サクサクの食感に頬を緩める。


クッキーを食べる手が止まらず、窓際の席で私がしばらくモグモグしていると。


「ちょっと、来たよ!」

「うわぁ、なんか今日も機嫌悪そう……」


廊下の近くの席のクラスメイトたちが、急にザワザワし始める。


教室のこの重たい空気……もしかして、あの人が来たのかな?


私が、教室の扉のほうへ目をやったとき。


「ちょっと……そこ、どいてくれねぇ?」

「ひいい。ご、ごめんなさい」


教室の扉の前で友達とケラケラ笑っていた男子が一瞬で顔色を変え、土下座する勢いで謝っている。


そして、謝る彼をよけながら教室へと入ってきた、鋭い目つきをしたひとりの男子生徒。


緒方(おがた)(ぜん)くん。


銀髪に、耳にはピアスをしていて。イケメンだけど、ちょっと強面。

見た目のせいなのか、入学当初からケンカ最強との噂が絶えず、クラスメイトから怖がられている男の子。


──ガタッ。


少しして、後ろの席に人が座る気配がする。


ちらっと振り返ってみると、そこに座っているのは銀髪ヤンキーの緒方くん。


そう。私と彼は、席が前後なのだ。


「……やば。クッキー食べる衛藤さん、可愛すぎ」


……え?


ポツリとそんな声が後ろから聞こえて、固まってしまう私。