* * *


「はい。どうぞ」

「ありがとう。わぁ、今日はドーナツだ」


翌朝。私たち以外誰もいない教室で、いつものように緒方くんからお菓子をもらった私はテンションが上がる。


「そのドーナツ、この前の休みに妹にも作ったんだけど。めっちゃ喜んでくれた」

「へぇ。食べるの、楽しみだなあ」


緒方くんと話すなかで、彼には年の離れた小学生の妹さんがいることを知った。


緒方くんはお菓子だけでなく、妹さんの好きなキャラクターのパンを作ってあげたりもするらしい。


「この前は、クマのキャラクターのパンを作ってやったんだけど。アイツ、すっげぇはしゃいで……」


緒方くんは、妹のことを話しながら温かく目を細め、彼のその優しい微笑みを見た瞬間、私の心はきゅっと締めつけられる。


緒方くんの笑った顔、初めて見た。


緒方くんって、すごく優しい目をして笑うんだな。


妹さんのことが、すごく大切なんだなあって、表情からも伝わってくるよ。


緒方くんって銀髪にピアスで、ちょっと強面だけど。


怖がらずにちゃんと見ると、顔のパーツが全て整ってて。彼は、なかなかのイケメンさんなんだよね。


妹さん想いで、ただのクラスメイトの私にも嫌な顔ひとつせずに毎日のようにお菓子を作ってきてくれて、ほんと優しい。


ヤンキーっぽい見た目と違って、中身は優しい人だってクラスの女の子に知られたら……緒方くん、モテちゃったりするのかな?


それは嫌だなって、ふとそんなことを思ってしまった。