「私のような平民が陛下の御背中に乗るなんてできませんよ。あはは……」
笑って誤魔化していると私のお腹がぐうと鳴ったので、竜王陛下の指示で胃に優しいスープを用意してもらった。
スープが入った深皿を受け取ろうとすると、竜王陛下に止められて彼が食べさせようとしてくる。
「ウェンディ、恥ずかしがらず口を開けたまえ」
「じ、自分で食べれますので匙を渡し――」
「私のために毒を受けた病人に無理をさせるものか。たくさん食べて早く元気になるんだ」
竜王陛下直々に食べさせてもらうなんて、後で訴えられてしまわないだろうか。
領主様に助けを求めると、そっと視線を外して見捨てられた。
(ううっ、緊張しているからスープの味がわからないよ……)
食事が終わると領主様が呼んでくれた医者に診察してもらう。
「毒による後遺症はありませんので、栄養と休息をとって安静にしてください。それでは、傷の手当てを――」
「手当は私がしよう」
竜王陛下は私が生死を彷徨ったことにかなり責任を感じているらしく、直々に私の傷の手当てをしてくれた。
大して深い傷ではないのに、包帯を大袈裟にぐるぐると巻くのだった。
「体が良くなったら私の背に乗って一緒に出かけよう。行きたい場所を考えておいてくれ」
「い、いえ! 竜王陛下の御背中に乗るなんてできませんので!」
私がオブシディアンに何度も強請っていたからなのか、竜王陛下はまだ私を背中に乗せようとする。
「もう私の背には興味がないのか……困ったな。あなたが別の竜に乗っているところを見たら、嫉妬でその竜を殺してしまいそうだ」
「嫉妬だなんて……いったいどうして……?」
竜王陛下は触れていた私の手を引き寄せ、手の甲にキスをした。その柔らかな唇が離れても、触れた箇所がじんじんと熱く感じる。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
私はただ、大切な相棒を守るために不審者に立ち向かっただけだ。それなのにお礼に結婚するだのしもべになるだの言われても困る。
「私のような平民が竜王陛下の妃だなんて不相応ですよ。ね、領主様?」
「……実は国王陛下と協議した結果、ベルを我がフォーサイス辺境伯家の養子にして貴族籍に入れたうえで輿入れすることが決まった。これからは私を――パパと呼びなさい」
「パ……パパ?!」
眠っている間にとんでもない話が進んでいた。
たった五歳年上のパパなんて、あまりにも無理がある。
「ベルのご両親は承諾済だ。娘をよろしく頼むと言伝をもらっている」
「まさかの承諾済!」
領主様の隣に、私に向かってサムズアップしている両親の幻影が見えた。
最近は二人から早く結婚しなさいと言われていたのだけど……もしかするとこの機会を逃したら私が永遠に結婚できないと思って、このありえない身分差の結婚に賛成したのかもしれない。
「突然のことで驚いただろうが、先代国王による侵攻でできた軋轢を埋めるための架け橋となってもらいたいという意向があってだな……」
「それって、つまり……」
「君に拒否権はないということだ。平和の象徴を担ってくれたまえ。貴族としての教養や礼節は私が責任もって叩き込むから安心してくれ」
用意周到な領主様なら宣言通り私を王妃に相応しい人間にしてくれるのかもしれない。
大勢の国民を守るためにこの結婚が必要であると頭ではわかっているけれど――。
「普通に恋愛して、好きな人と結婚したかったのに……」
「そう言われても結婚とは本来、政治的な繋がりを深めるものであって……いや、平民は違ったな。君を巻き込んでしまったことはすまないが……わかってくれ」
領主様の言う通り、今まで平民として育ってきた私は、恋人と愛を育んでから結婚したかったのだ。
「ウェンディ、この結婚に戸惑うあなたの気持ちはわかった。しかし私はあなた以外は考えられない。だから、あなたにに惚れてもらうチャンスをいただけないだろうか?」
竜王陛下は真摯な瞳で私を見つめた。
「私とデートしてほしい」
◇◇◇
竜は元来強い個体に惹かれる生き物だ。
自身より強い個体を主とし、また伴侶とする個体にも強さを求めた。
それなのにフォーサイス辺境伯で匿われていた頃のディーンは初めてウェンディを紹介された時、自分よりもうんとひ弱なウェンディを見るなり彼女に惹かれてしまい、困惑した。
(私が本気を出さずとも簡単に殺せそうなひ弱な人間など、なぜ気になってしまうのだろうか……)
甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼女の姿を、思わず目で追ってしまう。
「ねえ、今日こそオブシディアンの背に乗せてもらえる?」
期待のこもった声で頼まれると思わず乗せてやりたくなるが、王族としてのプライドを奮い立たせて拒否した。
アデルバードと彼の父には助けてもらった恩があるため多少の抵抗はあるものの背に乗せられたが、新米騎士としてやってきたウェンディを背に乗せてやる義理はない。
フンと鼻を鳴らしてそっぽを向くとウェンディは大人しく引き下がるが、それはそれでディーンの心をかき乱した。
ひと月前の襲撃事件が起こった日、アデルバードとの話を終えたディーンは竜の姿になってフォーサイス辺境伯領の獣舎で時間が過ぎるのを待っていた。
本当は木箱の中に隠している書物を読みたかったが、もう少し経てばウェンディが戻って来るだろうから我慢する。
(外に人の気配があるな。あの新米騎士ではないし、おぞましさを感じる……。侵入者だろうか?)
イルゼの国王がアデルバードを警戒して刺客を送り込んでいるのだと彼から聞いた。もしかするとその刺客なのかもしれない。
警戒したディーンが相手の出方を窺っていたその時、 体中に気味の悪い冷たい感触が広がった。
『――っ』
体に異常を感じて殺気だっていると、黒ずくめの服装の男性が獣舎の中に入ってきた。
「それにしても、立派な竜で殺すのが惜しいな。売れば高値で買い取ってもらえそう、だが国王陛下からフォーサイス辺境伯の戦力を削げとの命令がある以上、お前を生かしておけない。恨むなら国王陛下を恨んでくれ」
やはり国王の手の者だった。飛びかかろうとしたディーンは、その状態で体が動かなくなった。いくら力を入れてもいうことを聞いてくれない。
「ふう、上手くいったか。竜殺しの魔術なんて禁術を使う日が来るとは思わなかったな。さっき魔術をかけておいてよかった」
竜殺しの魔術とは大昔に作られた魔術だったが、竜人族と人間が交流するようになってから禁忌とされた。
竜の血に反応し、竜の身動きを止める――ヴァレリア王国を侵攻する際に使われたあの悍ましい魔術だった。
先ほど感じたあの冷たい感触は、魔術によるものだったらしい。
「心配するな。眠るように死ねる毒ですぐに楽になる。お前の鱗を一枚削いで、そこから毒を塗れば終わりだ」
国王の手の者がナイフを振り上げたその時、従者の扉が大きく開き、ウェンディが入ってきた。
(ここに来るな! 今すぐ逃げろ!)
ディーンの想いも虚しく、ウェンディは相棒を守るために国王の手の者に突進してのしかかる。
「くそっ、小娘が邪魔をしやがって!」
振り回されたナイフがウェンディの腕を掠り、その様子を見ていたディーンは背筋が凍った。
あのナイフには竜を殺すために毒が塗られているのだ。人間のウェンディにだって強力な毒のはず。
「私の大切な相棒を襲おうとしたことを後悔しなさい。覚悟ーっ!」
毒に気づかないウェンディはナイフを取り上げ、その柄で相手の首の後ろをトンと突いて気絶させた。
魔術は術者の意識が途切れると効果がなくなるようで、ディーンの体は動くようになった。
「オブシディアン、怪我はしていない? 大丈夫?」
不審者を拘束したウェンディが立ち上がってディーンに手を伸ばすが――ディーンに触れることなく、だらりと下がる。
『ウェンディ!』
ふつりと意識の糸が切れてしまったウェンディは目を閉じ、その場に崩れる。ディーンは大きな体を動かして、ウェンディが床に体を打ちつけないよう抱きとめた。
『どうして……私よりひ弱なくせに……なぜ……私を守った?』
血の気を失い、まるで永遠の眠りについているかのようなウェンディの顔を見ると、ディーンの心は悲しみと絶望で塗りたくられ胸をかきむしられるような苦しみに襲われる。
耐えがたい苦痛に、黒竜は咆哮を上げた。
『そうだ、解毒剤……まだ間に合うかもしれない』
悲嘆にくれる感情の中に残っていた冷静な部分がディーンを突き動かし、彼は人間の姿になってウェンディをアデルバードのもとに運んだ。
ちょうどアデルバードが、ディーンの咆哮を聞いてただならぬ事態が起こったと察して駆けつけていたためすぐに会うことができた。
「殿下、何があったのですか?!」
「ウェンディが侵入者を拘束した際に毒を受けた。眠るように死ぬ毒らしい。お願いだから助けてくれ……!」
アデルバードの迅速な対応のおかげでウェンディは解毒剤を与えられたが強力な毒の威力は強く、高熱が引き起こされては生死の間を彷徨うこととなったが、アデルバードが手配した優秀な医師の治療のおかげで峠を越えた。
「なぜ毒が抜けたのにウェンディは目覚めない?」
「体が弱っているから回復しているところです。あとは彼女自身の治癒能力に頼るしかありません」
医者の言葉にディーンは歯噛みした。
瞼を閉じたままのウェンディを前にして、自分は何もできたいことが悔しくてならなかった。
「早く目覚めさせる薬はないか?」
「う~ん……言い伝えですが、竜の鱗を煎じると霊薬ができると言われていますが……」
そこまで言い、医者は口を閉ざした。竜人の王に言うべきではなかったと、青ざめて謝罪する。
(いつになったら、ウェンディは目覚めてくれる……?)
ディーンの悲しみは怒りへと変わり、その矛先はウェンディに毒を塗ったあの不審者へと向けられた。
「……許せない。私の番を傷つけるなんて……――」
自分の口から零れ出た言葉に、ディーンは我ながら驚いた。
(私は今、番と言ったのか……)
竜人の王族の中には竜の血が濃い者が生まれ、その者は自分の運命の番がわかるという話を聞いたことがある。それなら自分よりひ弱な人間に惹かれてしまうこの状況に説明がつく。
「……そうか、ウェンディが私の番……」
自分よりも小さくてひ弱なのに、命がけで助けてくれた愛おしい番。
いくら相棒を助けるためとはいえ、刃物を持った相手に飛びかかるのは勇気がいるはずだ。
「もう二度とこのようなことが起こらないように、あなたが目覚めた時は平和な世界になるよう戦ってくる。だからどうか、その時は目を覚ましてくれ」
本当は番のそばにいたいが、ディーンには守らなければならない国と国民がいる。
名残惜しさを抱いて祖国に帰ったディーンは仲間と合流し、反乱を起こして瞬く間に暫定政府から国を奪還した。
その後政務の合間を縫っては竜に姿を変えてフォーサイス辺境伯領の領主邸へと向かい――ウェンディの様子を見ていたところ、彼女のが目を覚ましたのだった。
歓喜に打ち震えたディーンはすぐさまウェンディに求婚したが、ウェンディは戸惑いを見せた。
「普通に恋愛して、好きな人と結婚したかったのに……」
竜人のディーンとは違い、人間のウェンディは自分の番がわからないのだ。
番の望まないことはしたくないが、それでも彼女を伴侶にと望んでしまう。
ディーンはもう、愛する番を手放すつもりはない。
◇◇◇
「ウェンディ、どこへ行きたいか決まったか?」
ディーンは爽やかな水色の装束を着て現れた。私の瞳の色を纏ったのだとはにかみながら教えてくれた。
今日はいよいよ竜王陛下とのデートの日だ。
目覚めてから三週間ほど、すっかり体力がなくなってしまった私は、領主邸で治療を受けながら体力をつける特訓をした。
そうして体力づくりに励んだ結果、医者から完治したと告げられ――今日を迎えた。
「城下町にしましょう。その方が陛下が観光できますよね?」
「観光……か。私に気を遣わなくていい。せっかくだから私の背に乗って、この周辺を散策しよう」
黄金の瞳の奥で黒い瞳孔がキュッと細くなる。竜王陛下が光に包まれると形が変わり――光が収まると、今となっては懐かしい黒竜の姿があった。
(本当に陛下がオブシディアンだったのね……)
実際に姿が変わるところを見るまでは、同一人物なのだと信じ難かった。
『さあ、乗るがいい』
私が乗りやすいように伏せてくれている黒竜から竜王陛下の声が聞こえてくる。本当は竜の姿でも人の言葉を話せたらしい。
「本当に、乗ってもよろしいのでしょうか?」
『あなたが乗ってくれるのであれば本望だ』
躊躇う私に焦れたのか、竜王陛下は頭を使って器用に私を背に乗せる。
『私の首にしがみついてくれ』
その言葉を残し、大空に飛び立った。突然の浮遊感慌て、夢中で竜王陛下の首にしがみつく。
『ウェンディ、もう目を開けても大丈夫だ』
優しい声に促されてそっと目を開けると、私は上空にいた。
「わあっ! 城下町が小さく見える。まるで人形の街みたい」
眼下に城下町の景色が広がっており、人々が忙しなく動いている。
鳥や竜はいつもこのような景色を見ているのかと感激した。
『町を一周するから、気になる場所があれば言ってくれ』
時計台や中央広場、住宅街や公園を上空から観察すると、見慣れた町の違った表情が見れて面白い。
いつか竜の背に乗ってみたいと思っていた景色に、胸がいっぱいになった。
「竜王陛下、見せてくださってありがとうございます。もしお疲れでしたら、どこかに下りて休みませんか?」
『疲れてはいないが……とっておきの景色を見せたい。場所を移ろう』
城下町を離れて山を一つ越えると、そこはヴァレリア王国の領土内だ。初めて訪れる土地に浮き立つ半面、他国にいるため少し緊張する。
竜王陛下は山の斜面に広がる花畑の上に降り立った。翼から生まれる風が辺り一面に咲く花を揺らすと、ピンクや水色や白色の花びらが宙を舞う。
「素敵な花畑……北の砦は花が珍しいので、山を越えた先にこんなにも花が溢れているなんてビックリしました」
『喜んでもらえて何よりだ。フォーサイス辺境伯領では花が特別な日の贈り物だと辺境伯から聞いたから、この景色を見せたいと思っていた』
私が背中から降りると、竜王陛下は人間の姿になった。促され、彼が花畑の上に広げたハンカチの上に座る。
「ここは私が幼い頃から密かに訪れていた場所だ。一人になりたい時はここに来ていた。侵攻されてからも変わらないままで残っていてよかった」
竜王陛下は微笑むと花を一輪ずつ手折り、何やら手作業を始めてしまった。私もとりあえず倣って花を手折る。花の冠でも作ろう。
「私に秘密の場所を教えて良いのですか?」
「あなたは私の番だから構わない」
「番って……まさか竜の夫婦を指すあの言葉ですか?」
「そう、竜人にも番がある。自分の唯一の伴侶で、竜の血を強く受け継いだもの中には本能的にわかる人がいるとされている。自分がそうなるまでは半信半疑の言い伝えだった」
本当は初めて私と出会った時に、他の人からは感じない何かを感じ取っていたらしい。だけどその時は自分が番を判別できるなんて知らなかったから、不可解な違和感と思っていたそうだ。
「竜は強い者に惹かれる性質があるから、当時の私は竜人より力の劣る人間を背に乗せるなんてあり得ないと思っていた。フォーサイス辺境伯とその父君は、助けてもらった恩義があるから別だが……」
「だから私を背に乗せなかったんですね。認めてもらえなかったことは辛かったですが、竜王陛下の御立場を考えるとたしかに他国の平民を背に乗せるなんてできないと思います」
「しかし私の命の恩人であるあなたにはその権利がある。あの時、私は竜に効く魔術のせいで体が動かず、殺されるところだった」
「私はただ、相棒を守りたかっただけです。騎士になったは、目の前にいる大切な人たちを守りたいからだったので、あなたを助けたのも自分の信条に従っただけです。だから命の恩人だなんて大袈裟な……」
ふわり、と頭の上に軽い何かが乗せられる。顔を上げると、竜王陛下が瞳を蕩けさせて私を見つめている。
片手で触れてみると柔らかな花びらに手が触れる。竜王陛下も花輪を作っていたらしい。意外と器用だ。
「本能で愛しているだけではない。あなたのその真っ直ぐな想いと勇気に惚れている。もうあなた以外の伴侶は考えられない。砦の騎士を目指していたあなたの夢を奪うことは申し訳ないが……ヴァレリア王国の王妃として共に民を守ってほしい」
「私にそのような大層な役が務まるとは思えません。やってみて、できなかったで済まされることではないのに……」
「仕事をする時は補佐をしてくれる者がいる。私もそうだ。誰だって一人で仕事をしている訳ではない。これからも――仕事では相棒になろう」
大きな掌が私の頬に触れる。あっという間に、竜王陛下の顔が近づいて私の頬にキスをした。
「――っ」
「黒竜の私にいきなりキスしてきた意趣返しだ。あれには心をかき乱された」
頬が熱い。片手で頬に触れる私を、竜王陛下はニヤニヤと意地の悪い表情を浮かべて見てくる。
「あなたを妃として迎えるのは決定事項だ。しかしその前に――私の恋人になってくれないだろうか?」
「私が竜王陛下の……恋人に……?」
「そうすれば、あなたの望みを一つは叶えらえるかもしれないと思う。……いや、絶対に叶える。愛するウェンディのために最高の恋人になると約束しよう」
自信満々に言ったかと思うと、眉尻を下げてやや不安げに私を見つめる。
「この命に代えてもあなたを守るし絶対に幸せにする。嫌なことは随時言ってくれ。改善するから……私を嫌いになる前に言ってくれ。もちろん、嫌われない努力はするが……」
絶対に私を妃にさせるつもりだし外堀を埋めてきているくせに、私に嫌われることを恐れているらしい。
彼の言葉に胸の中が温かくなるのはたぶん、彼を愛おしく思う気持ちが芽吹いたからなのかもしれない。
私は竜王陛下の頭に自分が作った花の冠をポンと載せた。
「わかりました。不束者ですが、まずはあなたの恋人にさせてください。王妃になるまで必死で妃教育に励むので――たまにはまた、ここに連れて来てくださいね?」
「――っ、ああ、約束する!」
感極まった竜王陛下にぎゅうぎゅうと抱きしめられ、ちょっと息苦しくなった。
竜王陛下には約束をしっかり守ってくれて、いつも絶妙なタイミングで私を迎えに来ては、竜の姿になってこの花畑に連れて行ってくれた。
そうしてフォーサイス辺境伯領の空を黒竜が飛ぶと、城下町の人々は一途な竜王陛下の話をするのだった。
――それから一年後、イルゼ王国からヴァレリア王国に、元騎士で平民の女性が嫁いで妃となった。
新しい妃は竜人より力は劣るが、その勇気と行動力で彼らの王を助けた勇敢さにヴァレリア王国の民たちは感銘を受けており、温かく迎えた。
王妃は常に人に囲まれ、そして夫に見守られ、民のために仕事に励み、慕われたのだった。
(結)
***あとがき***
これにて完結です!お付き合いいただきありがとうございました!
ヒロインが番だとわかってからガンガン押していくヒーローでしたが、お楽しみいただけましたら嬉しいです。
それでは、新しい物語の世界でまた会いましょう!