目の前に、この国の王様と王妃様がいらっしゃる。

 謁見室? 私の前に二段の段差があって、その上に二つの椅子があり、そこにお座りになっている。

 そうだな、60代くらいか。ヴィンスがいくつか分からないけれど、それくらいか。


「ヴィンスが女の子を連れてきたって言うから、どんな方なのかすごく楽しみにしていたのよ」

「あの子は色々とやんちゃな所があってね。こんな可愛らしい女性と巡り会えただなんて、あの子もやるじゃないか。どこの出身なのかな?」

「に、ほん、王国デス……」

「はて、ニホン王国……聞いたことのない国だな。とても小さな国ということか。遠路はるばる大変だった事だろう。どうかゆっくりしていってくれ」

「こ、光栄です……」


 あの、ヴィンスさん? 早く来てくれません? 私どうしたらいいか分からないんですけど。

 という私の願いは届いてくれていたらしい、いきなり後ろにあった大きすぎるドアが勢いよく開いた。


「へーいーかー!!」


「おぉ、やっと来たか」

「あらあら、お嬢さんを取られて嫉妬してるのかしら? 可愛いところもまだ残ってたのねぇ」


 だいぶ言われてるな。すんごく不機嫌顔だし。

 てか、かっこいいな。ヴィンスさんよ、その服似合いますな。モロ王子様じゃないですか。あ、いや、そもそも王子様なんだけどさ。


「ナオになんか変なこと吹き込んでませんよね」

「吹き込むだなんて、大事なお客人にそんな事するわけないだろう」

「あら、もしかしてナオ、はお名前なのかしら?」

「そうですよ、我々とは文化が違いますからエグチか苗字、ナオが名前です」

「あらまぁ! 文化の違いって本当に素敵ねぇ。ナオさんの今着ていらっしゃる服もとても綺麗だわ!」


 王妃様、文化の違いを素敵って言うんだ。ちょっとびっくり。何か言われるんじゃないかって思ってたけどいらぬ心配だったな。


「とにかく、ナオは俺の命の恩人です。日本王国の第一王女でもありますから、丁重にもてなすよう言っておきますから」

「あぁ、構わないよ」

「では」


 いきなり手を握られ、引きずられるようにしてその謁見室を後にした。え、いいの?

 なんか、王妃様がまたね、って手を振ってくれたけど。


「いいの?」

「何言われた」

「え? う~ん、何も? ただ私の出身を聞かれて答えただけ」

「本当にそれだけ?」

「どんだけ信用してないのよ」

「……まぁいいや」


 あ、いいんだ。

 まぁ、可愛い子とか何だとかって言われたけど、別にそんなんじゃないし。ここではヴィンスのお客さんで日本王国の王女様って事になってるしな。てか、王女なんてやりたくもないんですけど。


「……そういえば、私ここでヴィンスって呼んでいいの?」

「いいだろ別に、誰も気にしない」


 いやするだろ、絶対するだろ。何でこの国の王子様の事あだ名で呼んじゃってるんだよって。王妃様達もヴィンスの事ヴィンスって呼んでたし。いいの? でも殿下って呼ぶとこの人怒るし。私どうしたらいい? ねぇシャロン君。貴方の主が意地悪してくるよ、助けてよ。

 と思っていた時、誰かが走ってきた。こっちに向かってる。……えっ。


「兄さんっ!!!!」


 わぁお、誰かさんそっくりな人が来たぞ。大体高校生くらい?

 あら、お兄さんいなくなっちゃって心配してたのかなとか思っていた私は、口をあんぐりしてしまった。


「兄さんさっさと王太子になれよ!!」

「開口一番それかよ。嫌だって言ってんだろ」

「やだよ、俺殺されたくないもん」

「知るか、王族に生まれた己を恨め」

「兄さんは王位継承権第一位だろっ!!」

「嫌なもんは嫌だって」


 ……何の話してるんだこの兄妹。おかえり兄さんとか、元気にしてたかとか、そういう展開になるんじゃなかったのか? おかしいぞ、ここ。


「……それで、そちらは?」

「あぁ、日本王国の王女エグチナオ、俺の恩人」

「え、誘拐」

「お前なぁ、失礼だろ」

「だって兄さんが連れてきたんだろ、あの兄さんが」


 真顔で言われてるぞ。弟にまで信用されてなかったのか、この人。やんちゃだとか何だとかって言われてたけど、一体今までどんな生活をしてきたのだろうか。


 なんて思いつつ、なんか陛下方に食事にお呼ばれしてしまったので食堂に案内されてしまったのだ。

 ……私、食事マナーとか大丈夫だったか?

 もう何が何だかよく分からず頭ぐるぐるで真っ白でどうしようもないのだが。


 そうして連れてこられたのは食堂らしい広いお部屋。長いテーブルがあり、こちらへどうぞと使用人さんが椅子を引いてくれた。けど、そこ陛下の斜め隣じゃん!! お誕生日席の陛下の!! しかも王妃様の目の前!! いやいやいや無理だってぇぇぇ!!

 一応ヴィンスは隣に座ってくれてるけど!!


「ナオさんは、カトラリーはナイフとフォークでも大丈夫?」

「あっ……」


 え、お箸でも持ってきた方が良かった?


「ナイフとフォークは俺が教えました。けどまだ練習中でもありますので」

「そうなのね、勉強熱心で感心するわ」


 ありがとう、ヴィンスさん。これで何かやらかしても練習中ですって事でスルーしてもらえるわけだ。

 それから運ばれてきた料理達は……まるで高級フレンチレストランのようなところに出てくるようなものばかりだった。

 あぁ、滅茶苦茶美味しそう。だけど、何か喉通らなそうでもある。だってそこに陛下と王妃様がいらっしゃるんだもん。王妃様の隣に弟さんも!

 けど、一つ思った。こんなすごいものを産まれた時からずっと食べてきたヴィンスに、平凡な私が作った料理を食わせていただなんて、申し訳なさ過ぎた。

 でも、とんかつは好きみたいだけどさ。初めて食べたって言っていたからここにはないと思う。


「なるほど、そんな事が……」

「船にいらっしゃる方々は、怪我などは大丈夫なのかしら」

「えぇ、幸い大きなけがや病気をした者達はいませんでしたので」


 私は合づちくらいしかせず、全部ヴィンスが話してくれた。何でも、国が侵略され落とされ、私達は仲間達のお陰で船で逃してもらえたという設定。何かまた変わったぞって思ったけど何も言わなかった。いや、無理だって。

 けど、実の家族にそんな嘘の話言っちゃっていいのかな。なんか申し訳なさでいっぱいなんだけど。

 ならこちらでも調査をしようかと言い出した陛下を丸め込んだヴィンスには感謝するけど。架空の国の調査なんて出来るわけがない。


「君はこの国の王子、私達の息子の恩人だ。出来るものであるなら何でも用意しよう」


 あ、やっぱりそうなるか。


「ずっと船の長旅で疲れた事でしょう、少しこちらに滞在してはいかが? 船に残っている人達の部屋も用意させるわ」


 どうしたものか、でも船にはシャロン君しか残ってない。船には秘密がいっぱいありすぎて何かあってバレてしまったら大変な事になってしまう。


「……まだ、日本王国を侵略した勢力が分かっていません。あの船がずっとこの国にあってはご迷惑が掛かってしまいます」

「迷惑だなんて思わなくて良い、君には多大な恩があるのだから。それに、狙われているのであれば、我々にも手助けすることは可能だと私は考える。船に関しては、ウチは魔道具技術に長けているから隠すことも可能だろう。どうだろうか」

「ですが……」

「陛下、今ナオは生存者を探している最中なんです。もしかしたら逃げる事が出来た日本人がいるかもしれませんから」

「なるほど……ならウチの船を使うといい。貿易船という事で自由に使ってくれ」


 船、か。まぁあんなすごい船を入国するたびに狙われるのは大変だし、ありがたいな。


「船の証明書も身分証もないだろう。サーセスト人となってしまうが、狙われているとあってはそれも必要になる」

「なるほど……恐れ入ります」


 うわぁこの王様太っ腹! 船もくれて証明書までくれるんだ! まぁこれ地球だったら捕まっちゃうけどさ。こっちはどうなのか分からないけど、まぁ王様がそう言ってるんだからOKよね。ありがとうございまーす!



 次回、最終話。