私は五十嵐 葵。【この華さしてあげよう】と言う乙女ゲームのヒロインである。ただし前編の。がつくが…………前編か後編かが分かるのは今日、この舞台の学園に入学する妹の五十嵐千春にかかっている。
妹の千春が地味でないカッコをしていればこの世界は前編となり、私がヒロインなのだが、妹の千春が地味なカッコをしていればこの世界は続編であり、妹の物語が始まり、私は妹の恋を邪魔する姉となる。
両親が海外で仕事しているということもあり、いつものように私が朝食を作って、どっちの姿で来るのかとドキドキして自分の席に座って妹をまっていれば、リビングに現れた妹は地味なカッコをしていた。
ありえない、ありえない、ありえない!!五十嵐 千春は私と対象者の好感度をあげるためのアイテムであり、私のルート次第で私と間違えられ、暴力を受け、精神的に病んで 姉 のお荷物になって、病んでる妹を心身共に支えるいいお姉ちゃん。と言う要素で好感度をあげる役目なのに!
妹を掴み前後に揺らしながら辞めるように伝えるが妹はなんてことないように微笑んで私の可愛さを褒める。
お姉ちゃんには負ける?そんなのあたりまえでしょ!?この物語は私のものであって、貴女のだなんて認めない!!
「やっぱりダメ!!」
許さない。1年の時から攻略対象者の好感度を必死に上げて、このまま行けば多分逆ハーENDを迎える予定なのに…………そんなの、絶対に許さない。そう思い妹のかけるメガネを外そうと手を伸ばせば、私の腕を掴んで止めて、続編の主人公が身を守るためにつけているメガネを外されそうになった時に言うセリフを口にした。
「眼鏡を外さないで」
その言葉を聞いた瞬間、怒りが爆発して乾いた声で笑ってしまったが何とか隠す。だめ、ここで悪役になっちゃダメ。1年間を無駄にするつもり?大丈夫。まだ時間はある。妹は誰を選ぶ?河原裕也?皆原司?それとも、前編にも登場したがルートが無かった登場人物の誰かかしら?
荒ぶる心を落ち着かせるようにそっと息を吐き出す。大丈夫。前編に出てきた攻略対象者も後編に落とすことができるけれど……後編の妹よりかは1年先に頑張った私の方が好感度が高いはずよ。大丈夫…………大丈夫。そう、自分に言い聞かせ、妹にほほ笑みかける。
「う、うぅん。迷惑だなんて思ってないよ!私に似て可愛いから、隠した方がいいよね!うん。そうだよ!私見たいに目立っちゃダメだからね!うんうん。安心で安全だー!」
そう言って微笑んだ表情は自分でも分かるほど固いもので……妹と共にもんをググれば私を褒める生徒の声が聞こえる。
だが、それは心地がいいものでは無い。これも全て続編に出てくるシナリオに過ぎない。続編はとにかく、美しすぎる私と平凡な妹の間に距離ができているのだ……
私を褒める声を止めるのはまだいい。そう思い、体育館近くに来て手を離そうとする妹をじっと見つめる。困惑する妹ににっこりと微笑む。
「いい、千春。絶対に入学式サボっちゃダメだからね。お姉ちゃんと約束して。お姉ちゃんの邪魔はしません。って…………」
言いなさい。言わないと許さないわよ。そう思いながら妹を見続ける。ここでちゃんと言わせないと……入学式をサボった妹が明桜海里と斎藤椿と遭遇してしまうイベントが起きてしまう。
そんなの絶対にダメ。私がこの話の主人公だから。私以外が愛されるだなんて許せない。私だけが愛されて、あなたはお荷物キャラで対象者の好感度をあげてくれるだけでいいのよ。そう考えすぎていた私を心配する妹の声が聞こえた。
「お姉ちゃん?体調悪い?朝からなんか変だよ…………」
私が変ですって?変なのはあんたの方よ。
「変なのは千春だよ。なんで、そんなかっこするの?なんで、お姉ちゃんとそっくりでいてくれないの!?お姉ちゃんのためにっ…………ごめん、千春ちゃん……」
役に立ちなさいよ!!そう叫んでしまうところだった。それは続編の、悪役キャラの葵の口癖だった…………だめだ。それを口にしたらいけない。とにかく、入学式はちゃんと出ること!!と言い残し私はその場を離れて違う方向からシナリオを阻止することにした。