入学式のさいちゅう。
「ねぇ、あの子が五十嵐先輩の妹だって」
「うっそ、五十嵐先輩が可哀想…………」
「あんな地味な妹とか…………ないわー」
と聞こえてくる。お姉ちゃんって新入生からも注目されてるんだーと聞き流しながらも、飽きかけた入学式にうんざりする。
お姉ちゃんにはサボるなと言われたけど…………と近くにたっていた先生に声をかけ、体調不良をつたえて体育館から抜け出し中庭に足を踏み入れた。
何故中庭なのかと言われれば、サボっているのを見られても迷ったと言い訳できる。と、言うか、そもそも体調不良を伝え保健室に行こうとする新入生を1人行かせたら迷うだろ。普通……と心の中で考えながらも中庭を歩いていれば、ねぇ。と声をかけられ振り向けば黒髪に金髪メッシュが入った男子生徒がいた。
「きみ、新入生だよね?こんなところでどーしたの?」
「えっと…………体調不良で保健室に行く途中だったんですが…………迷っちゃって…………」
「へぇ。のわりにはピンピンしてそうだけど?」
「…………うぅ…………お腹が…………」
お腹を抑えしゃがみこめば、わざとらしいえんぎー。と笑われ私は体調不良の振りをやめて立ち上がる。
「もう治ったの?せっかく保健室に案内してあげようと思ったのになぁー」
残念。と全く残念じゃなさそうに笑う男子生徒に苦笑しつつ、秘密にしておいてくれますか?と言えば少し考えてから、ヤダーと笑う男子生徒。
「え、普通に困るんですが…………」
「ならさー交換条件なんてど?」
「こうかんじょうけん?」
クスッと笑いAI的な言い方で言い直すじゃん。と笑い私に歩みよってきて、顎クイと言うものをされ視線を合わされる。
「そう、交換条件。きみのことをないしょにしてあげる代わりに……素顔を見せて?五十嵐千春ちゃん」
音符が着きそうなテンションで言った男子生徒に嫌ですが?と言えばキョトンとされる。
「え、普通に無理ですが?素顔を見せるぐらいならチクられて怒られる方がいいんですが?あ、でもそれだと、真面目ちゃんスタイルの意味がなさない?え、でも、素顔を見せたら…………終わる気がする。いろいろと…………」
「ちょ、ちょっと?無視しないで?」
「あ、ごめんなさい。素顔がどーのとか言いながら、なんで名前知ってんですか!?と考えてたら貴方のことを忘れかけてました。ごめんなさい?」
「えぇ!?自分で言うのもあれだけど、オレ結構イケてると思うんだけど!?目の前にいたら忘れられなくない?」
まぁ、「イケメンの定義」は人それぞれですが、顔面偏差値の高い男性を「嫌い」という女性はあまりいないでしょうねー。でも、イケメンの有効期間はせいぜい7週間とどこかで聞きました。第一印象で、素敵!タイプゥ~!、と思ったら、 イケメンいこーる内面もかっこいいに違いない!という思い込みで、付き合ってみたらガッカリなんてこともあるわけで……イケメンとの恋は辛いし面倒だしつまらないと言う言葉も聞いたことがあります。ですから…………まぁ、私は遠慮しときます。ごめんなさい?と首をかしげれば男子生徒は顔をひきつらせた。
「え、ちょ、え?なんかわかんないけど、オレ振られた!?確かに……イケメンいこーる内面もイケメンってことはまず無いかもしれないけど…………オレは内面も紳士よ!?こうみえて!ってか、顎クイされてるのに冷静に考えないでくれる!?もうちょっとなんかこう、恥じらってよ!!」
「え、チャラそう、軽そう、遊びそう。あ、つい本音が…………ごめんなさい?」
そう言って、顎を掴む男子生徒の手を振り払えば少し膨れたように私を見てくる。
「きみぃ~初対面の人によくそんなズケズケと…………」
「ごめんなさい!私サバサバしたタイプの女なのー!!」
「君の場合はサバサバと言うより、パサパサしてそうだね?」
「え、ちょっと何言ってるか分からない」
なんて言えば、安心して?オレも今自分が何言ってるかわかってないから。と言い返されお互い苦笑する。
「で、なんでしたっけ?確か、体調不良の私を見つけてくれた貴方が体育館から連れ出してくれて、よう姉ちゃん、今からサボりにシャレ込まんか?って会話でしたっけ?」
「色々ツッコミどころがありすぎて無理」
「あらヤダ。イケメンに真顔で無理って言われちゃった!」
顔を手でふさぎ、きゃっ!と可愛子ぶって悲鳴をあげるが、男子生徒は何も思っていないようで…………シラケた顔を私に向けていた。
「なんですか、と、言うか貴方は私の名前を知っているのに私だけ知らないってフェアじゃないですよ。名乗りやがれください」
「…………きみのような女性とは初めてだよ…………」
なんて、憂いたため息をつく男子生徒に、やったね!初体験卒業おめでとう!!と言えば苦い顔をしながら、名を名乗った。
彼の名前は明桜 海里と言うらしい。3年の先輩だったようで…………ちなみに攻略対象者である。
「では、明桜先輩。私はサボ…………じゃなかった、お散…………でもない。保健室を探す旅に出るので、然様然らば是にて御免」
いや、言い方が武士。と笑う明桜先輩に私は気にせず去ろうとするが…………明桜?と声が聞こえそちらを見れば姉の友達(攻略対象)の斉藤椿先輩がいた。
「あ、プレイボーイ先輩こんにちは!」
「あぁん?その生意気な口の利き方は……葵の妹か?」
なんて、歩み寄ってきたかと思えばガバッと私の肩にのしかかり、腕を肩に回される。重い重い!と騒ぐ私をそっちのけで明桜先輩に視線を向ける斉藤先輩。
「おぉ、明桜。葵が探してたぞ?」
「葵ちゃんがー?なんだろ、探される理由がわかんないけど?」
「俺も知らねぇ。ってか、明桜、[[rb:千春>こいつ]]引っ掛けんのは辞めとけよ?火傷するぜ?」
「ちょーど、火傷しかけたとこー」
なんて訳が分からない会話をしている先輩方を見ていれば体育館から教師が出てきて、私たちを見たかと思えば眉間に皺を寄せて走りよってくる。先輩達があちゃーと苦笑するのを見ていれば、グイッと腕を引っ張られ走ってきた先生は私を隠すように前に立つ。
「お前ら、新入生にもう手をつける気か!」
「やだなぁーそんなんじゃないよ、くろっち。オレはその子が迷ってたから声掛けただけー」
「俺は元々こいつと知り合いだ。黒梅せんせーこそ俺ら見つけて駆け付けて説教って酷くないか?」
「日頃の行いを考えろ!この馬鹿野郎共!!」
うわー。言葉の暴力ゥーと笑う明桜先輩とニヤニヤ笑う斉藤先輩。くろっちと呼ばれたいかにもインテリ系の先生はため息を着くと振り向いて私に視線を向ける。
「それで?新入生がこんなところで1人どうしたんだ」
「すみません。体調不良で保健室に行きたいと行ったんですが。そうかわかった気をつけてな。と言われただけで……保健室を探して入れば、明桜先輩とあって……それからプレ…………斉藤先輩に出会ったってかんじです…………」
「はぁ?……そうかわかった気をつけてな?どこの先生だ!」
なんて、目を釣りあげながら叫ぶ先生に少し驚きながらも、体調不良を訴えるように少しふらついたら先生が慌てたように腕を掴み支えてくれた。
「おい……大丈夫か?私はこのまま五十嵐千春を、保健室に連れていくからお前ら2人はお・と・な・し・く!!教室に戻れ!!」
「えー!やだー!俺が一番最初に千春ちゃんを見つけたのに、なんでくろっちなの!?わかった、保健室連れ込んであんなことやこんなことするつもりでしょー!漫画みたいに!!」
「今すぐその口を閉じなければ縫い付けるぞ!」
やだ!体罰ゥ~と笑う明桜先輩をくろっち先生の肩越しに見ていればいつの間にか背後に回り込んでいた斉藤先輩が私の腰に腕を回してくる。
「なっ!?斉藤!?私の生徒に手を出すことは許さんぞ!!」
「え!?まって!?ネタバレくらったかん半端ない!!え、先生が私の先生なの!?」
「あ?あぁ。黒梅 奏だ。1年間よろしく。いいか、こいつらみたいな問題児になったら問答無用で教育しなおすから覚悟するように」
え、でも……見た感じ教育しなおしたかんないですよね?と2人を見比べてから先生に視線を向ければ、こいつらはもう手遅れだ。とため息をついて私の腕を掴む。
「とにかく!お前らは教室。五十嵐妹は体育館だ!」
なんて、無遠慮に体育館に連れ戻されたのは言うまでもない…………