確か夢の中では、お姫様に婚約者の彼が裏切ったと伝えていたはずだ。

 お姫様の心の中は、婚約者の事で満たされていたから……彼女が彼を裏切るはずはない……。

 だから、付き合っていた関係でないことは確かだと思う。

 ……けど、黒木くんはここで嘘をついた。

 どうして? 

 私が不審の眼差しを向けていると、黒木くんは目に見えて動揺していた。

 ……前世の話を聞いていたのは、彼一人だった。他にも記憶が戻った人も居るらしいけれど、私は黒木くんしか知らないから、彼の言うことを鵜呑みにしていた。

 全部そのまま信じていたけど、藤崎くんの話だってもしかして、嘘が混じっていたとしたら……?

「……私。もう帰る」

 黒木くんが変な態度になってしまっている今、彼の話を聞くこともためらわれて、私は振り返って立ち去ろうとした。

 けれど、手首をつかまれて動けなくなった。

「待ってください。猫塚さん。僕の話を聞いてください」