「へーっ……そうなんだ。実は俺実は、階段で猫塚さんが落ちそうになった時、助けた事あるんだけど……覚えている?」

 その時に私たちは、視線が合った。

 なんとも言えない、探るような眼差しだ。何かを知りたがっているような……ハイライトの消えた黒い瞳。

「うんっ……覚えているよ! そうそう。入学したばかりの時だったよね。私は覚えているけど、藤崎くんが覚えているなんて……思わなかった。あの時はありがとうございました」

 これは本当に思って居なかった。私が階段から落ちそうになって、藤崎くんが引き上げてくれる代わりに階段の壁に頭をぶつけていたのだ。

 あの時、ごめんなさいって平謝りはしたんだけど、感謝の言葉が言えてなくて、ずっと気になっていた。

「いや……それは全然……良いよ。猫塚さんって、この前に階段落ちたって聞いたけど、大丈夫だった?」

 何……何なの……その探るような言葉に、私の様子をつぶさに観察しているような視線。

 良くわからない緊張感に襲われた。

 前世の記憶が戻ったか、確認している? え。けど、そういうことだとすると……。