私たち前世で婚約者だったらしいんですけど、もしかして、そちらも何か思い出されていらっしゃいます……?

 なんて、面と向かって聞けるはずもなく、私は上の空で声変わりしたてのような低い声での数学の説明を聞いているしかない。

 こんな事態にした犯人絵里香ちゃんは部活があると言って、去って行ってしまった。

 彼女には何の悪気もなく私が喜んでくれるだろうと望みを叶えてくれただけだというのに、少々憎らしい気持ちになってしまう事には仕方ない。

 だって、あの夢が前世の記憶だったという確信を得ることになるなんて、思わなかったもの。

「……あの、聞いてる?」

「きっ……聞いてるよ!」

 解き方を説明していたはずの藤崎くんにいぶかしげに確認された私は、慌てて言った。

 わざわざ時間を割いて教えて頂いているという立場なのに、なんという失礼をしてしまっているのか……。

 いや、顔を上げたら整った藤崎くんと目が合って慌てて椅子を引いたら、思ったより大きな音がして私の方が驚いてしまった。

「大丈夫……?」

「大丈夫!」