「だって、数学がもうすでに追いつけてないよー! はー……藤崎くんに勉強教えてもらえないかな」

 ランチバッグを振り回しながら、私は廊下を歩きそう言った。隣を歩く絵里香ちゃんは苦笑して言った。

「……それは、美波ちゃんが向こうに話しかけてからだよね」

 それは、本当にごもっともな意見だ。けど、私自身だってわかっているけれど、すごく解決しづらい問題である。

 恥ずかしくて話しかけられない。

 そういう理由で私と藤崎くんは全然話したことがないし、一回だけニアミスで助けて貰ったことがあるけど、彼の目には私はその他大勢の中の一人でしかなかった。

 私が入学式で一目惚れした藤崎優也くんは、新入生代表で中間テスト一位だった。つまり、秀才揃いのこの高校で入試一位だってこと。

 それだけでも凄いのに、彼は長身で姿勢良く黒いサラサラした髪に印象的なくらい真っ黒な色味の瞳。

 そして、アイドルって言われても『それはそうだよね』と、思わず信じてしまうくらいに凛々しく整った顔。

 もう、とにかく格好良いのだ。

 藤崎くんがいつも昼食を取るのは、校庭にある日当たりの良いベンチだ。