慌てた様子を見せる黒木くんに私は戸惑ったけど、まあ……本人が良いって言ったし良いか」

「うん。おかげさまで全然異常なし。一応MRIっていう頭の中が見られる装置で写真撮ったんだけど、ぜんっぜん異常なかったよ」

「良かったです。階段から落ちたら驚きますよね。じゃあ、僕は塾があるんで……」

 こうしてちゃんと話して初めて敬語キャラであることを知った黒木くんは、そそくさと荷物を持って帰って行った。

 そして、一人取り残された私は立ったままで、黒木くんが言った言葉を反芻した。

 思い出した訳ではないのか……? うん。なんだか、意味ありげな……言葉だよね。

 まるで、私は見たあの夢の中を黒木くんは『思い出した』と言っているようで……そんな訳ないけどね。



◇◆◇



 私はそれから、黒木くんがとても気になるようになった。

 全然、全く……異性として、好きでもないのに。

 黒木くん本人が聞けば『こっちだって別に好きでもないし、失礼な話だ』と思われるかもしれないけれど、実際問題そういうことなので仕方ない。私側の恋愛感情は0だと思う。