黙々と練習問題を解いていると、ガラッと引き戸の音がしたのでなにげなく扉を見た。

 そこに居たのは、私を昨日助けてくれたはずの黒木くんだった。

「黒木くん!」

 私が彼を呼びかけると黒木くんは常に細い目が開くくらい、驚いているみたい。え……なんで?

 彼にお礼を伝える機会を今日一日ずっと窺っていた私は、パッと立って彼の元へと向かった。

「……は、はい」

 おどおどしていて挙動不審過ぎる動きが気になるけど、昨日一部始終を見ていた絵里香ちゃんの話によると、彼が私を助けてくれたことには違いないのだ。

「昨日は助けてくれてありがとうー!! 担架で運ぶのも手伝ってくれたんだってねー。重かったでしょ。ごめんねー!!」

 私は感謝の意を伝えるためになるべくにこにこして感じよく言ったんだけど、黒木くんは何故か固まってしまった。

「あ……思い出した訳じゃないのか」

「え?」

 私は何を言ったのかわからなくて首を傾げたら、黒木くんは慌てて両手を突き出した。

「ちっ……違います。無事で良かったです。お怪我もなかったんですね」