綺麗な脳があるってことは、汚い脳があるって事……? まあ、私の頭は階段が落ちたくらいではどうってことはないと思うけど……。

 不意に頭を上げて藤崎くんが居る方向を見ようとしたら、彼と目が合ってしまって、私は慌ててパッと目を逸らした。

「本当だよね。え? 美波ちゃんどうしたの? ……っていうか、藤崎くんこっち見てるよ。美波ちゃん」

 絵里香ちゃんも藤崎くんがこちら方向を見ていることに気がついたのか、私にこそこそと耳打ちした。

 知っている……! 知っているよ! だから、頭を上げられないんだよ……!

「え。なんなんだろう……こっち方向に何かあるのかな?」

「……美波ちゃんが居るんじゃない?」

 絵里香ちゃんは当たり前みたいに言ったけど、私はぶんぶんと首を横に振った。

「私は確かに居るよ! けど、私を見る理由はないよね?」

「いつもの場所に居ないから、気になったんじゃない?」

「なっ……ないないない……ないよ。絶対」

 私はなんだかその時、視界が階段から落ちた時に見たあの夢の光景が広がっているような気がした。

 妙に現実感のある夢、不思議な感覚。

 私のことを認識していないはずなのに、妙に気にしているような素振り。

 ……まさかね。