お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

翌朝、再び美愛ちゃんの実家を訪れると、散歩から帰ってきたジョセフさんと門扉で出会った。


「おはようございます、ジョセフさん」

「雅くん、おはよう。ちょうどいいタイミングだ。きっともう朝食ができる頃だよ。さあ、入って」


彼は手にできたての豆乳と、近所のパン屋で特別に作ってもらったプレッツェルを持っている。





食卓には白ソーセージ、数種類のハム、スクランブルエッグなどの洋風メニューが並んでいる。中でも、庭で採れた秋イチジクは小ぶりながら甘みがあり、それを4等分に切り、ヤギのチーズを乗せて生ハムで巻いたものがとても美味しい。

コーヒーはもちろん、南ドイツのBayern Kaffeeをジョセフさんが淹れてくれた。

朝食後、涼介に確認の電話をかける。今日の引越し業者と警護は彼が手配してくれたため、万が一の事態に備えて、涼介も引越しに立ち会ってくれることになっている。





自宅を出る際、母親の久美子さんがクーラーバッグを渡そうとする。


「これを持って行って。うちで採れたイチジクよ。美愛ちゃんが好きなんだものね!」

「えっ、こんなにたくさん? これから引っ越しするのに」

「だから、クーラーバッグに入れたのよ。美愛ちゃんが作るイチジクのジャムは、とても美味しいのよね。ジャムを作ったら、持ってきてね〜」


にっこりと笑う久美子さん。さては、ジャムをさりげなく催促したかったのだろうか?


「もー、だからこれから引っ越しをするって言っているのに」


口を尖らせて不服そうな美愛ちゃんをなだめようと、俺が間に入った。


「俺もジャムを食べてみたいな。せっかくだから、いただこうよ?」


してやったりの表情を浮かべる久美子さん、やはりこの人は策士だ。ジョセフさんは少し離れた場所で二人のやり取りを見守り、肩を震わせながら笑いをこらえている。

俺の姉、葵と母さんとの口論に比べると、ほのぼのとした気持ちになる。怒った美愛ちゃんも可愛らしい。また新たな彼女の一面を見ることができた。