お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

翌日、美愛は10分前に会社に到着したが、すでに雅がそこにいた。


「お、おはようございます、社長」

「あっ、おはよう。今、コーヒーを入れているところなんだけど、飲むよね?」


雅は棚からコーヒー豆を取り出しながら聞いてきた。


「えっ、はい。ありがとうございます。お願いします。あの、社長は朝食をお召し上がりになりましたか?」

「今日はまだ食べてないなぁ。花村さんは?」

「私もまだです。もしよろしければ、甘いものでよろしければ、いかがですか?」


美愛はランチバッグから、巻かれたパイのようなものを取り出す。


「えっ、これパイ? 美味しそうだなぁ。実は甘いものが大好きなんだよ。だからBON BONを始めたのもそのためなんだ。これ、作ったの?」


「はい、ドイツのシュトゥルーデルという薄いパイ生地にりんごとくるみが入っています。社長、アレルギーは大丈夫ですか?」

「大丈夫。ちょうどコーヒーもできたし、仕事の前にいただこう」


二人は応接用の椅子に向かい合って席に着く。雅が入れたコーヒーの香りは、喫茶BONを思い起こさせる。ひと口コーヒーを飲んだ美愛は、思わずはっとした。


(あれ、このコーヒーの後味。ダークチョコレートとチェリーだ。もしかして、これ)


「花村さん、どうしたの? コーヒーは口に合わなかった?」

「ち、違います。とても美味しいです。あの、このコーヒーはもしかして南ドイツの『Bayern Kaffee』ですか?」


雅は目を大きく見開いて驚いた。
 

「えっ、すごい! よくわかったね。日本ではこれを知っている人はあまりいないんだよ」

「確かに、日本ではまだ販売されていませんね」