◇◆◇


「おはよう」

 翌朝あくびを噛み殺しながら、私は廊下を歩いた。昨日は遅くまで、ゲームしていたからとても眠たい。

 だって、無課金を貫こうとすると、時間を犠牲にすることになる。けど、親から与えられるお小遣いには限りがあるという、現代学生が誰しも感じているジレンマ。

「おはよう。有馬」

 目の前に黒い壁が現れて、睡眠不足で認識能力の落ちている私は誰だろうと首を傾げた。黒の中に縦にボタンが、何個か並んでいる。

 ということは、これは男子生徒の制服だ。

「おはよう」

 私は何も考えずに、顔を確認しようと上を向いた。間近で見るとより息を呑むような端正な顔に、黒縁の眼鏡がかけられていた。

 髪は黒髪だけど短く、ふわっとセットして散らしたスタイルだ。そう。最近のアイドルが好むような……。