今はこっちを見てなくて、自分の机の前に陣取っている夕凪さんと話しているみたいだ。その眼鏡をかけた整った横顔からは何の感情も見てとることが出来ない。

「俺は購買にパン買いに行くわ。ほら、有馬、行こうぜ」

 私のお弁当をサッと上から取ると、虎井くんは歩き出した。

 朝言ったように私を置いていかないよう注意して、ゆっくり歩幅を気を付けて歩いているみたい。そんなに器用そうに見えない虎井くんの仕草を見てなんだか微笑ましくなってしまった。

「弁当箱、持つよ」

「……これは人質だから、ダメ」

「人質? なんで?」

「これあったら有馬は他行けないだろう? だから人質」

 子どもっぽい可愛い顔を見てふっと笑ってしまう。人質なんかなくても何処にもいかないんだけどな。

 込み合う購買で慣れた様子でパンと飲み物を買って虎井くんは上に上がる階段に足を向けた。

「どこで食べるの?」

「穴場があるんだ、案内するよ」

 虎井くんはにやっと笑うと、上に向かって指をさした。

「わーっ……屋上はじめて来る!」