虎井くんがボールを追いかけてくる。私がボールを持って彼に投げ返した。器用に胸で受け止めるとつま先で何回かボールを弾ませた。

「ゆっきー、彼女が来たからって急に張り切るなよー!」

 ぎゃははという騒がしい笑い声を共に彼をからかう声が聞こえてくる。

「うるせー」

 日焼けした顔でも分かるくらい顔を赤くして虎井くんはボールを戻しながら言った。

「ゆっきーって呼ばれてるんだね」

「えっ、澪、引っ掛かるのそこ? 今言われた彼女って澪のことだよ?」

「え?」

「あいつ、多分自慢したくてしょうがなかったんだね。練習とは言え、はじめての彼女だって」

「でも、朝、事情は知ってるって言ってたよ?」

「事情を話した時、鷹羽くんのこと、不誠実だって怒ってたわね。もしかしたらそのまま自分の彼女にしたいんじゃない?」

「え?」

「ご愁傷様です、澪。でも、幼馴染の私から見ても顔は良いし、性格も悪くないよ?」

 その時長身の鷹羽くんがグラウンドの向こうで立ち尽くしているのを見て、なんだか胸が傷んだ。