もうクラスの女の子は着替え終わってて、先に出て行った。私と制汗剤の匂いと、黒板を消した後の独特の空気とか、なんでもない教室の中の風景。そんなものしか残っていない。

 残された私は急いで体操服に着替えて、ガラっと扉を開けて足早に体育館に行こうと走りかけたその時。

「有馬っ!」

 名前を呼ぶ声に私は驚いて、振り向いた。

「たかば、くん?」

 有馬くんは、男子が集まる隣の教室で着替えていたはずだ。

彼は体操服姿で、居心地悪そうに扉の前に立っていた。

蒸し暑くなりはじめた空気の中、そこだけ爽やかな空気を放っているようだった。顔が良いと、空気の清涼剤にもなってしまうらしい。

「有馬、昨日はごめん。あれはちゃんとした理由があって……」

「待ってた私じゃなくて夕凪さんと、帰っちゃったこと?」

 眼鏡の奥の真面目な視線に私は恥ずかしくなって、体操着の裾の生地を両手で掴んだ。

「そうなんだ。えっと今は……詳しくは言えないんだけど、俺の気持ちは……っ」

「鷹羽くーん」