事情も、知ってるんだ。長い足でさっさと歩いてしまう虎井くんには、私の足の長さの問題でなかなか追いつけない。

「ごめん」

 虎井くんは、急に立ち止まった。それを追いかけていた私は、勢い良くその大きな背中に額をぶつけてしまう。

「……わっ」

「俺。歩くの早い?」

 今までが嘘だったように気遣うようにして、私の顔を覗き込んだ。

 あまりにも顔が近くすぎて、戸惑ってしまった。顔が近い。近い。近くて、早く離して欲しい。

「う、うん」

 虎井くんは、焦っている私の気持ちを知ってか知らずか、おもむろにパッと顔を離した。

「……気をつける。寧々にも色々言われてたんだけど、本番は難しいな」

「本番?」

「俺。女の子と、今まで付き合ったことなくて」

 再び歩き出しながら、虎井くんは照れくさそうに言った。今度は私の歩幅に合わせてくれつつ、速度はゆっくりだ。

「そうなんだ?」

 こんなに格好良くてサッカー部なんだから、モテそうだけどな。確かに若干恐そうな雰囲気があるから、敬遠されているのかな。