意味ありげな視線を受けて後ろに目を向けたら、話題の鷹羽くんがこちらに向かって廊下を歩いてきていた。

「……え。こっち来てるよね? 寧々ちゃん。どうしよう!」

「どうしようって、普通に挨拶したら良いと思うよ。告白断ったからって、無視したりしたら可哀想……私。先に教室に戻ってるね~」

 わざとらしく宣言した寧々ちゃんは、さっと身を翻して開いたままの引き戸から教室へと入って行った。

 私の足は本来の機能を忘れてしまったように、緊張でガチガチに固まって動かない。

「おはよ。有馬」

「……おはよう」

 私は鷹羽くん黒縁眼鏡の奥の真っ直ぐな視線に耐えられなくて、思わず目を伏せた。

 低い角度の視界の中で長い足が、どんどん近づいてくる。

「あの」

 近くまでやって来た足が、急に止まった。私は勇気を出して、彼の顔を見た。顔面偏差値の格差が大き過ぎて、自分とは全く種族が違うような気もするけど、一応同じホモザピエンスに属しているはず多分。

「えっと……うん。あの」

「昨日はいきなり、ごめん……誰もいなかったし、偶然が重なってチャンスだと思って、色々先走りすぎた」

「……うん」