1冊の本を手に取ると、懐かしくて
その表紙をゆっくり撫でた


『その本気になるのなら貸そうか?』


「ヒッ!や、山岡さん
 服着てくださいって!!」


『んー?起きたらまだ茅葵がいて
 嬉しくて‥‥片付けてくれたのか?』


ドキッ


後ろから甘えるように肩に顎を乗せ、
お腹に両手を回されると、不覚にも
さっきのキスを思い出してしまい
本をさっと本棚に戻した


部屋に飾られていた時計を見れば、
いつの間にか3時間も過ぎていて
その事にも驚かされる



「また転んだら困りますから!!
 もう大丈夫そうですね!
 帰ります!!」


腕を解こうとして手をそこに
触れさせると、耳元に息がかかり
体が固まってしまった


『俺のデザイン画ずっと見てたね‥
 どうだった?』


えっ?


起きてたの?


見られてるなんて知らなくて、
無意識に座り込んで見てしまってたから
罪悪感と羞恥心でいたたまれなくなる


「あっ‥すみません‥‥了承も得ず
 見てしまって‥‥そのすごく
 勉強になりました。」


こんなことをするだらしなさは
否めないけど、山岡さんのデザインが
人気で受注が多いのも納得できる。


色使いや匂いまで感じるような
一つひとつのデザインがどうやって
生み出されてるのかすら気になった
くらいだから


『いつでも見に来ていいよ。
 茅葵のデザイン画の作り方も
 見てみたいし。』


「本当ですか!?勉強したいです!!」


あっ‥‥‥


つい嬉しさにかまけて忘れていたけど、
振り返った先に裸体があり、両手で
そっと山岡さんの鎖骨辺りを押し
顔を背けた


「あ、あのやっぱり帰りますね。
 お元気そうで何よりですから。」


距離が近いのに、背後は本棚と
身動きが取れず変な冷や汗が流れそうな
状況にどうしていいか分からない



『茅葵‥‥』


「えっ?は、はい、なんですか?」


だんだんと近付いてくる綺麗な顔に
ギュッと目を瞑ると、勢いよく
玄関の扉が開き驚いてしまい、思わず
山岡さんに抱きついてしまった


『亜耶ーー来たわよ!!って
 えっ?‥‥‥ヤダ!!
 お取り込み中だった!?』


えっ?


ヒェッ!!


ドンッ



『痛っーー!!』


「あっ!や、山岡さんすみません!!
 腰大丈夫ですか!?」


怪我してるのも考える余裕もなく
焦って思い切り突き飛ばしたせいで、
山岡さんが床に思いっきり
尻餅をついてしまったのだ


だって‥‥やましいことはないにしろ、
こんなところを見られてしまって
どうしていいか分からなくて‥


『大丈夫‥‥いててっ‥‥モモ、
 悪いけど手貸してくれ。』