真顔で見下ろされると、
会場で初めて会った時を思い出した。


「はい、よろしくお願いします。」


『フッ‥いい返事。
 俺の部屋の掃除は冗談で、
 この部屋の隣は終電逃した時や、
 仮眠や休憩したい時にみんなで使う
 部屋だからそこの掃除を週に一度
 頼むな。お昼休憩もそこでみんな
 取ってるし、たまに仲良い人で
 集まってご飯会してるから。』


そうだったんだ‥‥‥
てっきり山岡さんが住んでる部屋って
勘違いしてたけど、それを聞いて
かなりホッとしてしまった


仕事中もこの調子でいくのかと
ヒヤヒヤしてたけど、厳しい方が
今の私には嬉しい。



『ま、俺はしょっちゅう泊まるから
 寂しくなったら来てもいいよ?』


はぁ?


どっちが本当の山岡さんか
今はまだ分からないけど、
こんな風に冗談を言う異性は初めてだ


だいたい好きになるのは真面目で
大人しい人や落ち着いた人が多かった
から接し方がよく分からない。


落ち着いたらユイさんに今度
聞いてみようかな‥‥


「荷物運んでいただいて本当に
 ありがとうございました。
 これ‥多めに買ってきたんですけど、
 良かったら食べてください。」


差し入れも頂いたし、色々
手伝ってもらったからなんとなく
ついでに買ってきたけど、あからさま
だと渡しづらいから自分用と
見せかけて差し出した。



『ここのクロワッサン好きなんだよね。
 ありがとう、俺の為に。』


ギクッ


「ち、違いますって。私も好きで
 調子に乗って色々買いすぎた
 だけですから!」


『ふーん‥‥そうなんだ。
 ありがとう、頂くよ。
 何かあったらこの上に住んでるから
 気兼ねなく呼んで。
 いつでも会いに来るからさ。』


へっ?


この上?


人差し指で上を指した山岡さんに
苦笑いを向けると、ニヤっと笑うと
手を振って帰って行った。


バタン


結局ここに住んでるんじゃん!!
履いていたスリッパを思わず
脱ぎ捨ててドアに向かって投げて
しまいそうな衝動を抑える


はぁ‥‥
明後日から本当に大丈夫かな‥‥


寝室に飾られた私のデザイン画を
眺めながらふと嫌なことを思い出して
しまった


(茅葵は何をやってもダメね‥‥。
 どうしてあなただけこうも出来が
 悪いの?)


(広告デザイン会社に就職なんて
 何考えてるんだ!少しは千種を
 見習ったらどうだ!?)