『細川さん』


「は、はい、なんでしょう?」


雇い主に腰を抱かれるこの状況って
一体どういうことなんだろう‥‥


『ツラい時は俺に1番に言って。』


えっ?


『その作品を見るのもいいけど、
 この先悩んだりツラい時は溜めず
 きちんと言わないと‥‥そうだな
 ここにまた‥キスしようかな。』


指で唇に触れてきたので、
思いっきり顔を横に逸らしてしまう


「だ、大丈夫です。
 ちゃんと言いますから!!あと
 そういうことはたとえ挨拶でも
 気軽にしないで下さい!!」


『なんで?』


「えっ!?なんでって‥‥
 わたしは好きな人とそういう事は
 やっぱりしたいので、や、山岡さん
 とはしたくありません!
 恋人‥彼女とかにされて下さい!」


なんで?じゃないし!!
この人相当女慣れしてる気がする。
まぁ、この顔立ちでモテないはずは
ないとは思うけど、私みたいな社員を
巻き込まないで欲しい。


『好きな人と?』


「そ、そうですよ?あ、あの!
 もう片付けたいので、差し入れとか
 プレゼントとか本当に
 ありがとうございました。
 オフはゆっくりされて下さいね。
 お疲れ様です。」


バタン!!


何か思い悩むようにしていたので、
背中を押してそのまま玄関まで連れて
行くと、ニコリと笑ってドアを閉めた。


ふぅ‥‥‥


やっと静かになった‥‥


でもこのプレゼント‥嬉しいな‥‥


初めて誰かに見てもらえた下手くそなり
のデザインを見つめながら色々考えた


人生のSTARTは一度きりじゃない。


何度だってまた始められるから、
それが人生だって思っている


額の中にそっと触れると、それを
寝室にする予定の部屋に飾った


それから差し入れをありがたく
食べながらも夜まで片付けを続けると
なんとか生活できる形になり、
足りないものは明日立ち会いに行きがてら買いに行くことにしようと思う


「疲れた‥‥‥」


広いバスタブで足を伸ばして入浴
したあと、新しい部屋を一周ぐるっと
見渡してみる


ここからまた頑張ろう‥‥
不安は沢山あるけれど、今はやれることをとにかくこなして少しでもデザインを
学べるといいな‥‥


ガチャ


ガチャ


あ‥‥ちょうどお隣さんも出てきた‥。
なかなか会うことないから挨拶を‥


えっ?


次の日の朝出かけるために外に出た
私は飛び込んできた目の前の光景に
持っていたカバンを手から落として
しまったのだ