フェルデン公爵家は、代々ヴィンセント王国の宰相を務めてきた。
 そのため、現フェルデン公爵のたった一人の子供であるロッツにも、期待と責任が重くのしかかっている。いずれヴィンセント国王となるウルを支えるのも彼だろう。
 ウルは強くて魅力的な男だが、情に脆くて奔放だ。彼の代わりに冷酷な決断を下し舵を取ることを、きっとロッツは求められる。
 私もそうだ。
 ラインが次のヒンメル国王となるならば、明らかに力不足の彼を支えるのは私の役目。
 しかし、私も、ロッツも、天才ではない。
 ともに血の滲むような努力をした上で、毎回首位争いをしているのだ。
 ロッツの痛みが、私にはわかる。
 私の痛みも、きっと彼が知っているだろう。
 切磋琢磨し合える彼の存在が尊かった。
 負ければ悔しいが、しかし素直に賞賛の気持ちが湧くこの関係が愛おしい。
 ロッツもまた、私の努力を認め、一人の人間として尊重してくれているのがひしひしと伝わってくる。
 だから──

「──ちょっと成績がいいからって、調子に乗るなよ!」

 人生をともに歩むことを定められてしまった相手から、こんな風に努力も志も踏み躙られてしまうと、私は何もかもが虚しくなってしまう。
 成績表が張り出された日の放課後、ラインは決まって私を王宮の自室に呼びつけた。
 そうして、成績の振るわない自分をばかにしている、と根も葉もないことを言って詰るのだ。
 部屋には私達二人だけ。彼の理不尽な発言を諌める者はいない。

「ちょっとはさぁ、僕に花を持たそうとか考えつかないわけ!?」

 ラインは思慮に欠ける言動が多いが、よほどのことでもない限りダールグレン公爵家から婚約解消を申し出るのは難しいということだけは理解していた。
 だから、少しくらい暴言を吐きつけたって、私が自分から離れられないと思っているのだろう。それがまた、彼を苛立たせているのかもしれない。
 ともかく、私も反論するだけ無駄だと知っているから、毎回黙って彼の話を聞き流してきたが……