「本当だよ。僕も同じ……君を好きだからこそわかったんだ。ラインは、彼なりに君を愛していた。実際、大聖堂がナミを聖女だと持て囃すまでは、君との婚約を解消しようなんて微塵も考えていなかったと思うよ」
「そうかしら……」

 ラインに好かれている自覚なんてそれこそ微塵もなかった私は腑に落ちない思いだったが、ロッツは構わず続ける。

「アシェラをぶって婚約解消の話が出てから、ラインが慎重になってしまってね。彼の有責で婚約解消させるきっかけがなかなか掴めなくて、僕も焦っていたんだよ。あのまま王立学校を卒業してしまったら、アシェラとラインは自然と結婚の流れになると思ったから」

 そんな中でナミが現れ、ロッツは彼女を全力で利用することに決めた。
 そして彼の目論み通り、ラインはついに私からナミへと逃げたのだ。

「ナミ自身は聖女でも何でもないけれど、彼女がヒンメルに現れたこと自体は僕にとっては奇跡だったよ。あの出来事がヒンメルの神の思し召しならば──僕は、全財産を寄付してもいいくらい感謝する」
「大げさね……神なんて、いないわ」

 不信心な私の答えに、ロッツが声を立てて笑った。

「そうだね、神なんていない」

 そんな神を信じない男が、私を女神だと言うなんて、それこそ笑い話だろう。
 私は小さくため息をついた。

「あのね、ロッツ」
「うん」
「ラインが私との婚約を破棄して、ナミと結婚するって宣言した時ね」
「うん……」

 相変わらずラインの名を口にしたせいか、ロッツがまた拗ねた顔をする。
 それに構わず、私は続けた。

「祭壇の前で、光を浴びて微笑み合う二人を見て……私、不覚にも幸せそうって思ってしまったのよね」
「え」
「羨ましくて、悔しかったわ」
「アシェラ……?」

 この、まったく理解できない、という表情はきっとロッツの本心だろう。
 天才も、素の表情はどこか幼くて可愛らしい。
 私はそんな彼を上目遣いに見て言った。