「あなた──ウルに近づけないために、先に彼女達と付き合ったのかしら?」

 十三歳の私が、ロッツとキスをしている現場を目撃してしまったあの二つ年上の公爵令嬢もそうだ。
 かの公爵家も汚職で断罪され、彼女は卒業を待たずに王立学校を去っている。
 
「……」

 私の問いに、ロッツは答えなかった。
 この沈黙を肯定ととればいいのか、私が勝手にそうすることを期待しているだけなのかは、判断がつかない。
 凡人の私に、天才の思いは理解できない。
 だから、私は彼の答えを必要としなかった。

「そう思ったら……ロッツは、彼女達を本心から好きだったわけじゃないんだって思ったら、少しは気持ちが楽になった。私はそうやって、自分を慰めたわ」
「ア、アシェラ……」

 今度は、私の言葉にロッツが動揺するそぶりを見せる。
 それも、彼の本心なのか演技なのかを見破る力は私にはない。
 しばし、私達の間に沈黙が流れた。
 太陽がついに山際から顔を出し、ヴィンセントの朝を照らし出す。
 一面に広がる小麦畑は、ヒンメルのそれと少しも変わらず、祖国を出てきた私を不安にさせることはなかった。

「……ウルはね、僕の王なんだ」

 やがて、ロッツがぽつりと口を開く。

「初めて出会った時は二人とも赤子だったけれど、僕はその瞬間を覚えている。この人のために、僕は生まれてきたんだって、そう思ったんだ」
「そう……」
「昨夜ダールグレン公爵邸で告げた通り、僕の忠誠はウルに捧げてしまった。でも、それ以外は全部アシェラに捧げるという言葉にも嘘はないよ」
「……」