盗賊団の捕獲は国境に配備されていたヒンメル側の騎士達に任せ、私達はヴィンセント王国へと入った。
 御者台には、そのまま私とロッツが座っている。
 ウルとケットが、酒を飲んでしまったからだ。
 
「うう……申し訳ございません、姐さん。殿下が、嫌がる私に無理やり酒を……」
「まあ、ケットちゃん、かわいそうに。悪い王子様にはお仕置きが必要ね。──ウル、お尻を出しなさい。ぶってあげます」
「いやお前、絶対殴りたいだけだろ? おい、ロッツ! アシェラのそのヤバい武器、取り上げとけよ!」
「ねえ、アシェラ……それ、アーレン製の武器だよね? スピカがどうして次期皇帝に抜擢されたか知ってる? 七人の兄上達を全員ボッコボコにして勝ち抜いたからだよ?」

 やがて箱の中の主従が酔い潰れて静かになった頃、空が白み始めた。
 手綱を譲ったロッツのブロンドが、黎明の光を受けてきらきらと輝いている。
 そのえも言われぬ美しさに感慨を覚えていると、いつの間にかこちらを見返していた彼が、ため息交じりに言った。 

「アシェラは、きれいだね……やっと君を、ヴィンセントに連れて帰れた。これは、夢じゃないよね?」

 しかし、私はそんな彼をじとりと見上げて言い返す。
 
「都合のいいこと言うわね──私以外の子と、お付き合いもキスもしたくせに」
「えーと、それはさぁ……」

 とたんにばつが悪そうな顔をする相手に肩を竦め、私は前を向き直してから改めて口を開いた。
 
「王立学校を卒業した後、私は大陸中の国々の歴史を研究して、王立学校は今後どう各国と関わっていくべきか、それに付随するヒンメル王国のこれからを模索してきたの」
「うんうん」
「その過程で、各国の王侯貴族の動向も詳しく調べたわ。それで一つ、気づいたことがある」
「へえ、何だろう」

 こちらも前を向き直し、微笑みを浮かべて相槌を打っていたロッツが、次の言葉を聞いた瞬間、表情を消した。

「ロッツが王立学校時代にお付き合いした相手の家が──ことごとく失脚していた」

 最初は、ロッツが何かしたのかと思った。
 しかし、詳しく調べていくうちにそうではないことがわかってくる。
 どの相手の家も、大なり小なり、元々きな臭い噂のあるものばかりだったのだ。
 そのため、私はこう仮説を立てた。