「これは……」

 暗闇の中、盗賊達が持ち寄ったであろう松明でもって、驚くべき光景が浮かび上がっていた。
 ロッツとウルとケット以外──つまり、盗賊達だけが何かの大群に襲われているのだ。
 それは、茶色い毛並みの野ネズミだった。

「すごい……あの子達、もしかしてあなたのお友達?」

 げぼくじゃ。

 とかなんとか聞こえたような気がしたが、ともあれ味方ならばネズミでも何でも構わない。
 私はとたんに、わくわくとした心地になった。
 そのわくわくに背中を押され、馬車から御者台へと飛び移る。
 ところが……

「お、女!? おい、すげぇ上玉、乗せてやがるじゃねぇかっ!!」

 たまたま近くにいた盗賊に見つかってしまった。
 しかも、彼が頭領なのだろうか。
 図体の大きさも品の無さも悪意も、救いようのない方向にずば抜けている。

「荷も男もどうでもいい! この女だけもらってずらかるぞ!!」

 男は爛々と目を輝かせ、身体中に張り付いていたネズミ達を振り払った。
 そうして、その薄汚れた巨大な手を伸ばしてくる。

「アシェラ!!」

 ロッツが鋭く私の名を呼んでこちらに駆け出したのと、

「──触らないでくださいな」

 私の右の拳が唸るのは同時だった。