「忘れもしない、あれは王立学校に入学して最初の成績発表の日──生まれて初めて敗北を味わった君の、愕然とした顔を見た時だよ」
「……最低なんですけれど」
「その綺麗な青い目を見開いてね、顔色は真っ白だった。泣いちゃうかなってドキドキしながら見ていたんだけど……君は、泣かなかったね。代わりに唇を噛み締めて、顔をぎゅっと顰めたんだ。なんて可愛い子なんだろうって、僕はその時、雷に打たれたような心地がしたんだよ」
「あなた、意地が悪いわ」

 不貞腐れた私にふふと笑うと、ロッツは今度は私を膝に抱き上げてしまった。
 いきなりのことに抗うことも忘れて固まった私を、幼い子をあやすみたいにゆらゆら揺らしながら続ける。

「どうやってお近づきになろうか策を練ろうとしていたら、翌日、君の方から話しかけてくれたんだもん。それはもう、天にも昇る気持ちだった。絶対この子と結婚しようって、その時決めたんだ」
「私の意思などお構いなく?」
「そんなことはないよ。単に、君も僕と結婚したいと思ってくれるように、誘導する気だっただけ。まあ、洗脳でもいいけど」
「こわ……」

 私は、ロッツのことを大きく誤解していた。
 私もロッツも天才ではなく、ともに血の滲むような努力をした上で、毎回首位争いをしていると思っていた。
 お互いの痛みがわかる、切磋琢磨し合える尊い存在──そう思っていたのだ。
 けれども違った。
 ロッツは、私とは違う。
 彼は、天才だ。
 そして、それを隠していた。
 では、なぜそうとわかるのかというと──彼の他にもう一人、身近にいるからだ。
 私が逆立ちしたとしても、絶対に敵わないような、天才が。