「大司祭様は、ロッツだと言ったわ。ナミが現れたその日のうちに会いにきたロッツが、〝異世界から聖女が遣わされたのかな〟って呟いたんですって。あなた、覚えはある?」
「どうかなぁ。そんなどうでもいいこと、覚えてないかも」

 とぼけるロッツを一睨みして、私は続ける。

「あなたの行動が怪しいと思うようになったとたん、他にもひっかかることがいくつか出てきたのよね」

 私はここでロッツの胸ぐらを離したが、すかさずその手を握られてしまった。
 彼はそれに唇を寄せながら、美しく微笑んで首を傾げる。
 
「へえ、例えば?」
「そう、例えば──私が、ラインに引っ叩かれた時」

 とたん、わずかに強ばった目の前の顔に、私も微笑み返して続けた。

「侍従がすぐに飛び込んできたのよ。いつもはそんなことしないのに、あの時に限ってどうして扉の外で聞き耳を立てていたのか……思い返すと不思議なのよね」

 国王陛下も、この三日の間に私を訪ねてきていた。
 私とラインの関係がもはや修復不可能と悟った陛下は、これまでの彼の心ない行いを詫び、父の請求通りに慰謝料を支払うと約束してくれた。
 そんな彼に、ちょうど件の侍従が随行していたため、私はこっそり当時のことを尋ねたのだ。

「彼もね、ロッツに言われたのですって」

 そう告げても、目の前の相手が焦る様子はなかったが……