最初にロッツの行動に疑問を抱いたのは、四年前──ナミが現れた時だった。
 私とウルは彼に誘われ、異世界から来たというナミに会いに行ったわけだが、彼女はその時ロッツの名前を知っていた。
 つまり、彼らはすでに面識があったのだ。

「ナミは〝摩訶不思議な光る板を持って現れただけの異世界人を自称する只人〟だった。ウルと引き合わせるに値する人材ではなかったわ。あなたは彼女と先に会って、それを確認したはずよ」

 それなのに、どうしてロッツはウルを会わせたのか?

「あなたがナミと本当に会わせたかったのは、ウルじゃない。ウルの行くところにならどこへでもついて行きたがったオリビア王女と──そして、私を会わせたかったのね」

 オリビアがナミを嫌うであろうことも、ナミが私を敵視するようになることも、ロッツは確信していたのだろう。
 ──性悪王女と悪役令嬢に寄ってたかってイジワルをされる可哀想なワタシ!
 そう、ナミが自分の状況を脚色することも、彼は分かっていた。
 明確な敵を持ったナミは、自分をちやほやする大聖堂とラインにどんどんと依存していく。
 聖女に選ばれた自分に酔うラインの心もますます私から離れていった。

「そもそもおかしいのよね。聖女なんてもの、ヒンメル聖教の経典にはどこにも載っていないの。それなのに、どうして大聖堂がナミにそう称することを思いついたのか……」

 ところで、ラインとの婚約破棄から三日が経ったが、その間、傷心のあまり自室に閉じこもったことになっている私を見舞った者が何人もいた。
 大司祭もその一人だ。
 一気に老け込んだ様子の彼を手厚くもてなしつつ、私は問うた。
 いったい誰が、最初に〝聖女〟なんて言葉を持ち出したのか、と。