あれは今から四年前、私やロッツが王立学校を卒業する間際のことだ。
 大聖堂の祭壇の前──今まさにラインとともに立っている場所に現れた彼女は、その場に居合わせた司祭達に対し、自分はニホンなる小さな島国からやってきたと語ったという。
 その噂をどこからか聞きつけてきたロッツに引っ張られて、私とウルも彼女に会いにいったのだ。
 驚いたのは、異世界から来た、なんて奇想天外な主張をするわりに、ナミがあまりに凡庸だったこと。さらに……

「──出た、悪役令嬢!」
「まあ……それって、私のことかしら?」

 初対面にもかかわらず、私を指差し悪役呼ばわりしてきたことだ。
 これには、ロッツもウルも眉を顰めたが、一番眦をつり上げたのは私の手を握ってくっついてきていた小さな女の子──六歳になったヒンメル王女オリビアだった。

「無礼な女。アシェラが美しいから、しっとしたんでしょう。おまえは心までみにくくて救いようがないわね」
「ひ、ひどい……! ロッツ、この子何なの?」

 切れ味鋭い六歳児の言葉にナミはすぐに涙ぐんで、なぜかロッツに縋ろうとしたが、彼もウルも相手にしなかった。
 そもそも、ひどいのはどっちなのだか。
 私はおそらく、これをきっかけに彼女に敵認定されたのだろう。
 ナミを見る限り、異世界というのは随分と稚拙で野蛮なところなのかもしれない。
 また、彼女が持ってきたスマホとかいう摩訶不思議な光る板は興味深かったが、その構造やら製法を尋ねたところで、本人は何一つ答えられなかった。
 
「しょ、しょうがないじゃない! 私が作ったんじゃないもん!」
「自分が使っているものがどういう理屈で成り立っているのか、知りたいとは思わなかったの?」
「普通思わないでしょ! そんなの知らなくたって、使えればいいんだし!」
「そうね……使えているうちは、いいのだけれど」

 命あるものはいつか必ず死ぬ。
 物も、やがて壊れる。
 そんな当たり前のことも、異世界では教わらないのだろうか。
 結局スマホとやらは三日と経たずに光を失い、本当にただの板となってしまった。
 と同時に、ロッツもウルもナミに対する一切の興味を失い、必然的に私もそれ以上彼女と関わることはなかった。
 オリビアに至っては、あれから四年経った現在でも蛇蝎のごとくナミを嫌っているらしい。
 一方で、ダールグレン公爵家に対抗する術を渇望していた大聖堂と、何よりこの国の王子であるラインが、ナミという存在自体に過剰な可能性を見出した。
 ナミは、ヒンメル王国のために神が選んで遣わせた聖女に違いないと騒ぎ始めたのだ。