「藤堂君、駅に向かってたって言ってたけど、もしかして私を気に掛けてくれたんですか?」
「・・・予定が空いたから、少しくらいなら杉原さんのお願い聞いても良いかなって思っただけで、ただの気まぐれ心だよ」
「つまり、好きな子に振られちゃった訳ですね」
「違うから。彼女とはさっきまで一緒にいたよ。ただ、凄く忙しい子で気い使い屋だから邪魔になったら悪いと思って、早めに切り上げて来ただけだ。それと、杉原さんの助言でカーネーションのフラワーボックスを贈ったら凄く喜んでくれたよ」
「お役に立てた様で嬉しいです」
「・・・バイト、何時まで?助言のお礼くらいはする」

不本意だけど、と言う態度を貫いてそう彼女に告げる。
彼女は俺の本心を探る様に、じっと見た後、いつもの不誠実な可愛い笑顔を俺へと向けて来た。

「藤堂君、お気遣い有難うございます。でも折角のクリスマスですから、藤堂君が楽しめる事をなさって下さいな」
「杉原さん、駄目だよ。俺の事が好きなら、此処は喜ぶ所だよ」

ちょっと意味深を込めて言うと、彼女は小さく息を飲んだのが分かった。
俺が気付いてないとでも思ってるのかね。
どういう企みか知らないけど、杉原衣は、俺を好きなわけではない。
現に、今日みたいに俺が踏み込めば、あっさりと引いていく。
クリスマスイブデートの誘いも、元より俺がOK出す筈がないと知った上での誘いだ。
正直、彼女の思惑通りに動かされるのは面白くないし気に食わない。
結羽の笑顔が見れたお礼をしたい、と言うのも本心だ。
だが、お礼とかこつけて、彼女の予定調和を壊してみたくもなった。

「私はただ、彼女さんに振られて傷心中の藤堂君のお気持ちを優先してあげようとしただけですよ。そうおっしゃるなら、遠慮なく今日は付き合って頂きます」
「お気遣いどうも」
「少し待ってて貰えますか?残りケーキ3つですし、店長に上がりの許可取って来ます」

杉原さんはそう言い残し、バイト先であろうケーキ屋の中へ。
数分後、コートとマフラーを纏い、いつもの眼鏡を掛けた彼女が戻って来た。

「お待たせしました」
「バイトお疲れ様。此処でバイトしてんの?」
「此処ではクリスマス期間限定の短期で入らせて貰ったんです。ケーキの売り上げ最高記録だと褒められました。来年も任せたいと言われちゃいました」
「可愛いサンタさんの罠に、間抜けな男共がひっ掛かったって訳か」
「藤堂君に可愛いと言われるのは悪い気はしませんが、ケーキを買いに来てくれた大半は小さい子連れのご家族様方や、カップルさん達です。そうですね、ナンパ目的さんは10人くらいだっだでしょうか」
「いや、充分過ぎる数だろう」
「さ、駅前に行きましょうか」

俺に構わず先に歩き出す杉原さんの後に、俺も続く。
遠くからはクリスマスソングが聞こえてくる。