*魅惑な彼女*


急ぎ足で進んでいた俺の足が止まる。
何故?と思わずに居られない。
クリスマスカラーに染まる商店街。
その一角にあるケーキ屋の前で、見知った顔を見付けた。
サンタコスをしながらケーキの売り子をしているのは、眼鏡こそ掛けて居ないが、間違い無く今日、俺にクリスマスイブの約束を持ちかけた来た彼女その人だった。

大きなテーブルには、ケーキの箱が4つ残されている。
そして今しがた、男性が買い求め残り3つに。
だがどうみても、男性の目的はケーキ購買ではない。

「ねぇお姉さん、この後良かったらさ、俺とクリスマスデートしない?」
「折角のお誘いですが、この後、大切な人との予定が入っていますので」
「それって恋人?」
「はい」
「だよね、お姉さん美人だし恋人が居ないわけないよね。でもさ、万が一予定が空く様なら連絡してよ。これ俺の連絡先ね」

男はそう言うとテーブルの上に紙を置き、ケーキの箱を持ちながら去って行く。
おそらく、何人もの男が、そういう下心でケーキを買いに来たのだろうと安易に想像が付いた。
彼女は、置かれた紙に目を通す事なく、慣れた様にポケットへしまう。

「俺をデートに誘っといて、こんな所で何してるんですか?」

少し皮肉交じりに声を掛ける。
彼女は、至って冷静な態度で、俺を瞳に映す。

「なんで藤堂君が此処に?」
「駅に向かってたら、杉原さんが可愛いい格好しているのを見えたので。で、何してるの?」
「見て分かりません?ケーキ屋のバイトで売り子してます」
「俺をデートに誘っておいて?」
「藤堂君、絶対に来ないと思ってましたので」

その通りだ、俺は彼女と約束していた訳ではない。
彼女が、クリスマスイブに何処で誰と何をしようが、それは彼女の自由だ。
俺に口出す権利はない。