藤堂君はいつからか、最初に私が告白をした路地裏で、私を待っていてくれる事が多くなった。
おそらく私のしつこさに根負けし、優しい藤堂君は、私が彼を探す手間を省いてくれているんじゃないかなっと勝手に思っている。
正直、有難い。

そして今日はホワイトデー。
ホワイトデーとペアであるバレンタインの出来事を思い出せば、今でも恥ずかさで爆発してしまいそうになる。
ぎゅっもキス未遂も、私の反応をみて、告白の真意を調査する為のお試し行動だったのだろうが、もう少し穏便な方法を考えて欲しかった。

バレンタインの一件で、誤魔化し誤魔化しで知らんぷりを決め込んでいた恋心を、強引に自覚させられた。
ぎゅっも嬉しかったし、キスも与えて貰えるのなら、素直に貰ってしまいたいと思った。

藤堂君から逃げてしまいたかったが、結羽のお願いを邪険にする訳にもいかず。
それに、結羽はいつも楽しそうに藤堂君の話を聞く。結羽の楽しみを取り上げるなんて、私にはとてもじゃないけど出来ない。
なので、人知れず溜息を付いて、毎度藤堂君との勝負に挑んでいる。
自覚してからか「告白行為」が、一段と恥ずかしく感じられて仕方がない。

バレンタインだけでも勘弁して欲しいのに、ホワイトデーの今日も同状況になっている。
路地裏にて、藤堂君に抱きしめられてる私。
なんで?どうして?また試されてるの?
恥ずかしくて、心臓が痛くて、藤堂君を蹴っ飛ばしてでもこの状況から打破したくてしょうが無い。
お願いだからこれ以上、心に介入してこないで。

「あの、藤堂君?」
「・・・つい」
「え?」
「熱い」

自分の体が熱いのは、自分の感情から来る熱さかと思っていたが、それだけではなかったらしい。
藤堂君から発せられる、病気的の熱さも含んでいたようだ。
耳元で聞こえる息遣いも荒いし、額に触れれば分かりやすく熱が伝わってくる。

「凄い熱ですよ。早くお家に帰って休んで下さい。こんな体調崩してる時に出歩くなんて」
「ん、でも、今日はホワイトデーだし、杉原さんにお返ししなきゃと」

律儀にも程がある。
押しかけているだけの私に、そこまで気を利かせてくれなくて良いのに。
でも、その気遣いの優しさが嬉しいと、正直に思ってしまう。

「藤堂君、一度、離れて下さい。ご自宅まで送ります、場所どこですか?」

病人を一人で返すのは非常に心配だ。
藤堂君は中学時代から一人暮らしをしていると結羽が話してくれた事があった。
母子家庭で、母親から「あの男に似て憎らしい顔」と罵られながら生活していたらしい。
その母親も今は再婚し、別家庭を持っているとの事。

抱擁を解放すると、藤堂君は私の手を引いてゆらゆらと歩き出した。