まだ少しだけ陽の目がある時間帯。
朔と多駕が辿り着いた家は、セキュリティがしっかり備わっていそうな豪邸だった。
入り口には防犯カメラもある。
周りは高い塀で囲まれ、乗り越えるのは難しそうだ。
表札には『新井』の文字。

「どうやって入るんだ?」

壊して忍び込んで、警察沙汰にでもした方がいいのではないかと、朔は物騒な手段を考える。

「真正面の門からに決まってるだろ」

当然の様に多駕が言う。

「開いてる訳も、開けてくれる訳もないだろ」
「言ったろ、とあるコネがあるって。今、カメラも小細工してあるし、顔認証の門も俺に設定されてる」

多駕が門に近づけば、重たそうな豪華な門が静かに開いた。
関心などしてる暇もなく、開いたと同時に朔は新井家の奥へと駆け出していく。
多駕も同様に急ぐ。

「「結衣」」

と、朔と多駕が二人同時に土足のまま、唯一明かりが付いていた部屋へと飛び込む。
まず、二人の目に飛び込んできたのは、床に転がりながら腹を押さえ小刻みに震え悶えている男と、そんな男を無感情で見下ろす下着姿の結衣。
多駕は大体何が起こったのか把握した。
そしてその発端が、床に無造作に散らばっている紙切れだと言う事も。
その紙から垣間見えるのは、結羽の文字。
多駕はそれを目にした時、狂気的な怒りが湧く。
けれど今は、優先事項をすぐに見極め、その感情を抑えた。

「取り敢えず、服を着ような、結衣」

優しく諭す様に言う多駕の声に、ようやく結衣も、先程まで居なかった筈の第三者の存在に気づく。

「・・・多駕。と藤堂、く、ん?」

多駕だけならまだしも、朔もその場に一緒に居た事に、結衣は自分の霰もない姿を曝け出している事実に赤面する。
そんな結衣に駆け寄り、朔は強く抱き締めた。

「と、と、と、とうど、く」

いきなりの朔の行動に、結衣は戸惑い硬直する。
けれど、素肌に直に感じる朔の温さも、抱き締めてくる窮屈感も恥ずかしくて堪らないのに、先程までの不愉快さが消え、結衣は、不思議な心地よさと安堵感を覚えていた。

そして・・・耳元で、苦しく小さく囁かれた「心配した」の声に、感情のブレーキが一気に壊された事を、結衣は悟る。