*聖夜のお誘い*


「藤堂君、このクリスマスイベント一緒に行きませんか?駅前7時に待ち合わせなんてどうですか?」
「行きません」

杉原衣が見せてきたのは、駅前広場で毎年聖夜に行われる冬祭りの宣伝チラシ。
大きいツリーが設けられ、イルミネーションも煌びやかに輝く。
屋台も並び、賑やかに執り行われる。

「そう言わず、気が向いたらで構いませんから。私、毎年家族で行ってるんですよ。毎年、イルミネーションが異なって今年はどんな風に描かれるのか楽しみなんです」
「そうですか。だったら今年も家族団欒で楽しんで下さい」
「今年は、藤堂君優先します、家族にも話してOK貰ってます」
「勝手にOKするな。とにかく俺は行かないから。言っただろ、好きな奴が居るって。クリスマスはその子を誘うつもりだから」

結羽は催し事とか、楽しいイベントが大好きな子だった。
会えなくても、結羽にクリスマス気分を楽しんで貰える何かを伝えてやりたい。
おそらく、来年は・・・。

「そっか残念。じゃ、もし藤堂君がその子に振られたら、私との時間を考えて下さいな」
「本当、前向きな性格してんな」
「そうだ藤堂君。カーネーションなんてプレゼントしたら如何です?その好きな子に」
「なんだよいきなり。そもそもカーネーションは母の日だろうが」
「そんな事はないですよ。カーネーションは感謝の花です。うちでは感謝を伝えたい時や仲直りしたい時は、赤いカーネーションを渡すんです」
「てか、なんでいきなりプレゼントやカーネーションの話になってんだよ」
「ん~なんとなく、藤堂君の元気がない様な気がしたから、その好きな子と喧嘩でもしたのかなって思って」
「・・・してないよ、喧嘩なんて」
「私の気のせいでしたか」

喧嘩なんてした事もない。
結羽はいつも優しかった。
出会った当初、構われるのが嫌で理不尽に怒る俺に対してだって、結羽はどこまでも優しく笑って対応してくれていた。

「では、お互い良いクリスマスを」
「俺は行かないからな」

彼女はいつも通り微笑み、何処かに行ってしまう。
杉原衣の言行動は腑に落ちない事が多い。
普通、俺が好きな子へ贈る物の助言なんてするか?仮にも俺を「好き」だと断言する癖に。
そういえば、今日は彼女からの告白がなかった気がする。
もしかして俺、そんな気を使われる程、落ち込んでる様に見えたのだろうか?

カーネーションね。
感謝の花か。
赤いし、クリスマスっぽいっちゃぽいかな。