*猫の行方*


結空は、時計を見上げる。
帰宅時間を過ぎても、結衣が帰って来ない。
夕方6時過ぎ、もうすぐ陽が完全に落ちる。
結衣は毎朝、結空に余計な心配させない為に、その日の予定を話してから出掛けていく。
急な変更がある時は、早めの連絡を欠かさない律儀な子だ。
電話を掛け、メッセージも送っているが、反応はない。
結衣にだって結衣の付き合いがあり、時間を忘れるくらい夢中になる出来事が起こる事だってあるかもしれない。
けれど結空は、自分の胸騒ぎを単なる心配し過ぎだと割り切る事が出来なかった。


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「穂波多駕!!」

多駕に指定され呼び出された場所に着くやいなや、朔は取り乱した様子で多駕に詰め寄る。

「結空さんからも連絡を受けた、結衣が帰って来ないってどういう事だ?」
「取り越し苦労って事もあるが、結衣が無駄に結空さんを心配させるとは思えないからな」
「同感だ。でもどうするんだ?当てもなく、取り敢えず探し回ってみるか?」
「今、とあるコネを使って、結衣の足取りを追って貰ってる。無闇矢鱈に探し回るより、連絡を待って動く方が賢明だ」

口調は平坦としているが、多駕の表情には確かな苛立ちと焦りが含まれている。
多駕は、構えていたスマホが鳴るとすぐさま「何処だ?」とスマホの向こう側の相手に聞く。
スマホを切ると、多駕は「行くぞ」と朔に言い付け走り出す。
朔も後を追う。

「結衣の場所分かったのか?」
「あぁ。急いだ方がいい、やばい噂がある一家だ。たく結衣の奴、あれ程用心しろと言ったのに」

鬼気迫る様子を見せる多駕に、朔の焦りは更に増す。