カラン、とドアベルが鳴り、入店早々「メロンソーダお願いします」と注文を受ける。
その声に、結衣は三毛猫を撫でていた手を止めた。

「いらっしゃい朔君」
「こんにちは」
「すっかり常連になっちゃったね」
「ミケ君とロイちゃんが可愛くて、つい」

ミケはカフェの看板猫で、ロイは小型種の看板犬。
朔の姿を見るやいなや、ロイは朔の足元をクルクル回り、愛嬌を撒く。

「ロイはほんと、朔君大好きだね」
「それは光栄です」

朔は一席空けて、結衣の隣に座る。

「一目散に逃げ出すと思ったのに、もう、俺を避けるのは止めたの?」

あの恋慕小岳の恥ずかしいやらかしから、結衣は朔を避けに避けまくっていた。
朝、家を出る時間を早めたり、夕食時は結空に頼み居留守を使ったりと、その他色々、朔と勝ち合いそうな行動パターンを全て変えた。

「避けてる事にお気づきなら、放って置いて頂きたいですね」
「俺はたまたま、此処のメロンソーダが飲みたくなっただけだよ」
「どうだか」
「ま、嘘だけど。結空さんに、この時間なら犬猫カフェに居る可能性が高いって教えて貰った。まだ怒ってる?」
「最初から怒ってません。藤堂君と、どう顔を合わせたら良いのか、分からなくなってるだけです」

声を踊らせ楽しそうな朔と、平穏を装いつつ毅然を保とうと頑張る結衣。
そんな二人の様子に、朔が訪れ出した当初の事を、ツバサは思い出していた。

ーーーー以前は、無愛想な朔君を、結衣ちゃんが追いかける側だったのに、関係性が逆になってる、ほんと、面白い子達だな。

「俺に抱かれながら泣くの、気持ち良くなかった?」
「・・・忘れたい出来事なので、掘り返さないで頂けますか?」

横目で朔を睨みながら、結衣は至って冷静を保ち言い返す。
内心の動揺を鎮めようと、手元のオレンジジュースを啜る結衣だがーーーー既に氷だけ。

「結衣ちゃん、おかわり、居る?」
「・・・下さい」
「えっと、結衣ちゃん。結空にまだ暫くは秘密にしておいた方が良いと思うよ。アイツ、結衣ちゃんの成長にショックを受けて絶対に泣くから」
「ツバサさん?何か、あらぬ方向に盛大な勘違いを起こしていませんか?」
「二人が始めて一緒に店を訪ねた時から、何となく予感はしていたけど、意外と早くその時が来ていたのか。そっか、あの純粋な結衣ちゃんが」

何処か生暖かい目をしたツバサから、オレンジジュースとメロンソーダが、結衣と朔の前に届く。

「藤堂君の、配慮が足らない発言が発端なんですから、藤堂君が責任を持って、ツバサさんの誤解を解いて下さい」
「結衣が俺を避けるの止めると言うなら、一任されても良いよ」
「卑怯な」