＊警告、警戒＊


「いいですか？お姉様。男性とのお付き合いは是非とも、慎重に慎重を重ね、相手をきちんと見極めた上でご判断を下さいませ」
「・・・」
「若い二人の恋人同士と言う物は、心だけでは満たされぬものです、身体の繋がりからは逃れられません。もし、好意を持たれた男性が居たとしても、その方に処女を捧げても良いと言う気高き覚悟がないうちは、決して安易な同意はなさいません様に。分かりましたか？」

食堂の端っこの席で、阿澄による恋愛講座を受けさせられている結衣。
結衣はほぼ聞き流し状態で、黙々と弁当のオカズをつまむ。

鈴野結衣18歳。もう時期19歳を迎える。
結衣は、自らの色恋事情を阿澄に話した事は一度としてないが、何故か阿澄の中で、今だ結衣が純朴の乙女である事は確定されているらしい。
確かに、今まで常に妹一番に生活してきたが故に、年相応の恋愛をしたことがないのはまた事実ではある。
けれど経験はなくても、授業の一環や友の体験談話などで、男女の恋愛と言う物が感情だけでは済むものではない事など、知識的には知っているし理解もしている。

「お姉様、億劫そうに聞いておられますが、理解している事と、己がその立場に付く事とは全く違いますからね」

結衣の思考を読み、釘を刺される。
けれど結衣は「分かってます」と軽く流すだけ。

ーーーー恋人、か。

不意に結衣の脳裏に蘇る、先日恋慕小岳で朔の前でしでかしてしまった羞恥。
心が少し弱気になったとはいえ、甘え甘やかさせ。
頬に口付けされた感触が、今だに生々しく残る。
ボンッと音が鳴るんじゃないかと思う程、結衣の顔中が一気に熱く沸く。

「ちょ、お姉様、分かりやす過ぎです、今どなたを思い出されたんですか！？お相手は誰です！？穂波君？それともクリスマスの時にいた青年ですか！！？」

「楽しそうですね、こんにちは、鈴野さん。僕もランチをご一緒させて貰えないかな？」

恋愛講座中の結衣と阿澄の元に、突然、男性の声が掛かる。
身嗜(みだしな)み整った高級感ある服装や、自身に満ち溢れた立ち振る舞い、華やかしい優雅さを何処と無く感じされるその男性。
その男性は、緩和な笑みを浮かべ、結衣に視線を落としたまま、質問の答えを待っている。
正直、結衣は初対面ではあるが、その男性の瞳に異質は不気味そを覚え、好意的な位置付けは持てなかった。

「女子同士の楽しい時間を邪魔しないで頂けますか？」

阿澄が、警戒心を露わにしながらそう男性に告げる。
相変わらず、結衣に近寄る男性には容赦のない姿勢を取る阿澄。
けれど何処か、クリスマスの時、朔に見せた嫉妬心混じりの可愛い威嚇よりも、恐恐として殺伐感を、その男性に向けている事に、結衣は気付く。

ーーーー財閥関係の裏事情やいざこざは私には遠い世界の事柄だけど、阿澄さんがこれ程の毛嫌いを示すって事は、たちの悪い男性である可能性が高いわね。