「ちゃんと泣いてる、良かった。って、ごめん、見るつもりは無かったんだ、今は一人になりたいよな、すぐ俺どっか行くから」
「や、まって」

慌ててその場から去ろうとする朔の胸に、結衣は迷わず抱きつく。
朔の肩口に顔を埋め、背中に回された結衣の手は、震えながら朔の服を握る。

「ゆ、結衣?」

朔が躊躇いがちに呼ぶも、結衣には届かない。

「置いてか、ないで。私も、結羽やお母さんやお父さんと一緒の所に居たい、一人にしないで、置いて、いかないで。結羽、結羽っ」

苦しげに妹の名前を呼び続け、泣き続ける結衣。
朔は空の両腕をどうしようか悩んだのち、結衣が安心出来そうな力加減を探りつつ抱きしめた。

朔はクリスマスの時の、ブラックサンタの一件を思い出す。
「置いていかない」と言った時に彼女が浮かべた嬉しそうな笑みの理由が少し、分かった様な気がした。


*****


ーーーーなんで藤堂君が此処に?夢じゃなかったの?

ゆっくりと浮上する意識。
泣きすぎて頭がまだクラクラする、上手に思考を扱えない。

何時も一人で泣く寺の中。
お気に入りのタンポポ座布団は朔に取られ、自分はその朔の膝に座り、抱き寄せられている。

ーーーー藤堂君、あったかくて気持ちいい

結衣のぼんやりとした視線に気付き、朔は小さく笑む。

「少しは落ち着いた?」
「はい。あの、何やらみっともない所をお見せしてしまった様で、困らせてしまいましたよね、申し訳ありません。今、退きますね」

朔の膝の上から移動しようとした結衣だったが、頭と腰をやんわりと抑えられる。

「嫌だったら、暴れて逃げて良いよ」
「・・・今の私に、暴れる元気なんてないです」

素直に、結衣は朔に体重を預け直す。
朔の行為が、泣いてた女の子を放おっておけず寄り添っているだけだと分かっていても、心が悄気(しょげ)てしまっている今の自分は、その朔の優しさに縋らずには居られなかった。

頬に当てられる柔らかく甘い刺激にも、結衣は反応出来ず、ただただ受け入れていた。


*おまけ絵*