*迷子*


道ならぬ道を通り、迷いに迷って辿り着いた目的地。
高い木々で囲まれた小さなスペースの真ん中には、年季の入った小さな寺が堂々と陣取っている。
昼間なのに薄暗い。見上げれば枝と葉で多い茂り、空からは少しの光が通る程度。

「よく辿り着いたな俺」

自分の手に握られた紙を見ながら、自分を褒めずにはいられなかった。
結羽がくれた小鳥ノートに挟まっていたその紙。
絵なのか暗号なのか、よく分からない図が描かれていたが、その紙には結羽の字で書かれた付箋が貼られており。

『お姉ちゃんが描いた恋慕小岳にあると言われている寺の場所を示した地図だよ。探索宜しくね、朔』

結羽の頼みでも投げ出したくなった。
どっちが上なのか下なのか、右か左かも解読不能な絵図。
この絵図で読み解けるとしたら、一箇所だけ赤い点が記されているので、そこがおそらく寺の場所なのだろう、と言う事だけだ。
朔は二時間彷徨い、途中は感だけを頼りに進んでいた。
諦めない根性が実り、朔は何とか目的の寺を見つけ出す事に成功。
寺は確かに年季が入っているが、手入れされた痕跡がある。
手すりにも階段にも、そこまで土も葉も積もっていない。
誰かが定期的に掃除をしているのが、垣間見える。
寺の中はもっと整理されており、床には井草のゴザが引かれ、ランタンとタンポポ柄の座布団まで用意されている。

「秘密基地かよ」

ウキウキ気分で、この基地を彼女が管理してるのかと思うと、つい微笑ましくて可笑しくなる。
それと同時に、彼女はこの寺に、どんな祈りを持って訪れているのだろうかとも考えてしまう。
もしくは、気持ちの吐き出す場所として彼女が使っているのじゃないのかと。

鈴野結衣は、両親が亡くなった時も、結羽が亡くなった時も、葬式の最中ですら一切、涙一つ落とす事はなかったと、朔は結空から聞かされていた。